シェイクダウン 12
次に幸太郎は死霊術の説明をした。といっても、『ペイント』や
『インビジブル』など細かいものは割愛。また、封印決定の『幽体離脱』も
話すのはやめておく事にする。『幽体離脱』は諸刃の剣だ。
偵察とかには非常に便利そうだが、何かあったら、即死間違いなし。
幸太郎は使う気にならない。
「・・・と、このようにゴースト、ゾンビ、スケルトンは
それぞれ使い方が違うから、状況によって何を呼び出すかは、
注意が必要だな。中でもゴーストは約20分しかもたないが、
何より空が飛べるのは非常に有効だから便利だ。力も、およそ25キロから
30キロくらいの物が持ち上げられる。あと、『半実体』のせいで
外見の変化もできるのは面白い所か」
幸太郎は呼び出したゴーストをアザラシモードにする。
モコもエンリイも『かわいい』と大喜びだ。ドライアードたちも
気に入ったようである。中身はアレだが。
「外見はイメージを送ることで変化させられるが、
あんまり複雑な物には変化できない。例えば・・・」
幸太郎はゴーストをジャンジャック、グレゴリオの順番で
外見を似せてみた。
「おお・・・でも、なんとなく似てるじゃねーか。
特にゴリオは割と似てると思うぜ?」
「ふーむ。確かに『なんとなく』は似てるな・・・。
遠目なら囮に使えるかもな」
「まあ、ダンジョンじゃ役には立たないと思うが、
万一コピーモンスターの注意をそらす必要があるときは言ってくれ。
そして、今ここに召喚したゴースト、ゾンビ、スケルトン全てに
共通している弱点だが・・・。『召喚するのに時間がかかる』ってことだ。
召喚してから姿が顕現し、命令通りに動けるようになるまで、
ゴーストで2秒、ゾンビやスケルトンだと4秒ほどかかってしまう」
「つまり、何かの攻撃に即座に対応するのは・・・無理ってことか。
スキルの発動に似てるな。無詠唱でも発動するまでに
タイムラグが発生する・・・。
これは知らなかったな。憶えておくぜ」
「これは死霊術の致命的な弱点だ。簡単に言えば、
カルタスやバスキーさん相手だと、俺は何もできずに死ぬだろう。
死霊術はあらかじめ準備して、初めて高い効果が見込める魔法なんだ。
モコの役割はとても重要だ。俺がアルカ大森林に来る途中で
盗賊を倒したが、これはモコの助力無しでは不可能だったと言っていい。
モコの耳で索敵して、モコの護衛がある。
これでようやく死霊術は一人前だな」
モコが幸太郎の隣で真っ赤になって照れている。
「なるほどなぁ・・・。無詠唱であっても、そこは注意が必要か。
よし。これは先に聞いておいて良かったぜ。ところで幸太郎。
お前は最大でどのくらいゴーストとかを呼び出せるんだ?」
「それは、呼び出すものによって違うな。
ゴースト、ゾンビ、スケルトン、全て必要な魔力量 (MP)が
違うんだよ。まあ、例えばゴーストだけを呼び出したとすると・・・」
幸太郎は頭の中でステータスを呼び出して仰天した。
ジャンジャックたちが不思議そうな顔をする。
「なんだ? どうした?」
「いや、何でもない・・・」
幸太郎が驚いた理由。それはステータスの大幅な上昇だった。
はっきり言えばMPだけが突出して増えていた。
(HPは8のまま・・・だが、MPが『119』だと???
レベルは35・・・。レベルは1しか上がってないのに、
MPが倍近く増えている・・・)
幸太郎は自分がとんでもない勘違いをしていることに気が付いた。
『ステータスウインドウ』はムラサキが幸太郎のいた地球のゲームを
参考に作ったものだ。そう、あくまで『ムラサキが作った』もの。
ゲームのシステムではない。幸太郎はドラクエなどの
ゲームと混同していたのだ。
(この『ステータス』は・・・あくまで現在の自分の能力を、
ムラサキさんの作った基準で数値化して投影されているだけなんだ・・・。
レベルはあくまで『ネクロマンサー』としての力量を
ムラサキさんの見立てで、数値に置き換えただけ。
HPは現在の俺の身体能力や身のこなし、戦いなどへの慣れを
総合的に判断して数値化しているだけ。
MPも現在の俺の使用しても大丈夫な魔力量を、ムラサキさんが
数値として教えてくれるだけなんだ。
つまり・・・レベルと各パラメーターは連動していない・・・。
俺はゲームと同じように考えて、間違えていたんだ。
『レベルが上がったから、各パラメーターも上がる』ではなく、
『自分のパラメーターが上がった分を、
各項目でバラバラに上書きされる』なんだ・・・)
幸太郎は納得いった。HPが全然増えないと思っていたが、当然だった。
体を鍛えたわけでない、何か戦闘訓練をしたわけでもない、
単に歩き回っているだけと、実戦に少し慣れただけ。
だから『頭打ち』になっているのだ。増えるわけがない。
逆に、魔法はスキル化した『成仏』も含めて、ガンガン使っている。
しかも、エリーの胎児を救うために『死ぬ寸前』まで
自分を追い込んだ。その結果、幸太郎の魔力と、魔力量は
一気に鍛え上げられた。レベルが1しか上がっていないのは、
あくまでネクロマンサーとしての力量のことだ。
(そういえば・・・最初ムラサキさんは
『すぐに太陽魔法は使えるようになる』みたいなことを
言っていたような・・・。これはスキルに改造された
『成仏』を使っているだけでも最大MPはどんどん増えてい行くって
意味だったのか・・・。ようやく気が付いた・・・。
俺って頭わるいなあ・・・)タメイキ
ここで幸太郎は、ふと、あることを思い出して、モコのステータスを見た。
(C)雨男 2022/04/30 ALL RIGHTS RESERVED




