雷の魔法について
「『雷の魔法』・・・? そりゃ無茶苦茶キツイ魔法だな・・・。
ま、結論から言うと『いない』だな。『雷のエレメンタル』は
『風のエレメンタル』の眷属ではあるが、大人しく言うことを聞くような
エレメンタルじゃねえ。とにかく暴れん坊だ。安定しない。
もちろん『雷の魔法』を使う魔物がいないわけじゃない。
クラウドドラゴン、雷竜、鵺、雷獣・・・。
いずれも『伝説級』と言っていいな。文献に載ってるだけで、
見たことある奴なんていないだろ。それと『雷のエレメンタル』は
『土のエレメンタル』と特別相性が悪い。
地下にあるダンジョンでは発動しないだろうな」
「なるほどな。ではコピーモンスターが使ってくる魔法は
『火』と『風』・・・扱いやすい魔法だけってことかな」
「あとは基本の『魔力操作』から発展してできた
『魔法の矢』とか『魔力障壁』なんかはあるかもしれんが・・・。
『結界』みたいな上級魔法は心配する必要はないな。
『結界』は強力だが、あれを使うと中からも手が出せない。
そんな魔物はいねーよ」
「ジャンジャックは魔法にも詳しいんだな。
・・・ついでに聞いていいか?
『雷の魔法』を使う人間は多いのか?」
「はあ?・・・そんな奴は、いないに決まってんだろ・・・。
何? カルタスさんが『雷のオーブ』で・・・?
うわあ・・・えげつない手を使うんだな、暗殺部隊ってのは。
俺やゴリオも、そいつは防げないな・・・」
「幸太郎殿、『雷の魔法』ってのは習得も難しい上に、
習得中に死亡する可能性が最も高い魔法なんだ。
さらに習得しても実戦では使えない魔法なんだよ」
「なんで? 雷なら風より速いんじゃないのか?
なんにでも効果ありそうだし、
実戦で一番強そうな気がするけど?」
「一番強いからだよ。俺もジャンジャックも魔法はちょっと
基本を習った程度の知識しかないが、なるべく簡潔に説明しよう。
まず『実戦で使えない』って意味だが、『雷の魔法』はとても
コントロールが難しいんだ。おまけに発動したら、
その瞬間には敵に当たるほど速い」
「目にもとまらぬ速さなら、敵も避けられないんじゃないのか?」
「その代わり、味方も避けられない。
コントロールをミスったらまず一番近い味方に当たる。
魔導士は呪文の詠唱をしなくてはならないから、
どうしても前衛に時間稼ぎを頼らざるを得ない。
味方の後方から『雷の魔法』を使って、コントロールを失敗すると、
発動した瞬間に味方の前衛が雷に打たれる。
最悪、味方だけ全滅して、敵が無傷なんて事態に陥る」
「げげ・・・。そんなに難しいのか・・・『雷の魔法』って・・・」
「ジャンジャックも言ったが、とにかく安定しないんだ。
『隷属の指輪』に組み込んである、静電気くらいの雷なら難しくない。
『マジックアカデミー』の学生なら誰でも扱えるだろう。
この程度なら失敗してもビリッとくるだけで済むから心配ない。
だが、当然、静電気くらいじゃ野犬だって倒せない。
だからといって殺傷力を持つレベルを扱おうとすると、
失敗イコール即死だ。
おそらく途中で魔力が足りなくなるのではないか、
と推察されているが、何度も練習して成功しているのに、
いきなり制御に失敗して死亡って例がウジャウジャある。
『火の魔法』なら火傷したり、髪の毛が燃えたり程度で済むし、
『風の魔法』なら切り傷だらけになったりするが、
まあ死ぬことはなかろう。だが『雷の魔法』だけはそうはいかん。
というわけで、学ぶ奴も少ないし、実戦で使おうって奴はゼロだ。
強力な分、リスクが高すぎる。命がかかっている戦いで、
そんな危険をおかす意味が無い。
それなら素直に『火の魔法』や『風の魔法』を伸ばした方が、
よほど生き残れる」
「だが、カルタスさんが食らったっていう『雷のオーブ』は驚きだぜ。
そんな使い方があるなんてな・・・」
「珍しいものか?」
「珍しいっていうか・・・。まず普通は考えつかねえよ。
口の中でかみ砕ける大きさのオーブに殺傷力を持たせるまで、
魔法を付与し続けるなんてよ・・・。
まあ、俺たちも専門じゃないから推測でしかないが、
毎日毎日静電気みたいな『雷の魔法』を何百回も付与し続けて・・・
1年がかりで1個くらいなら作れるかもなあ・・・」
「な、なんて割に合わない作業・・・」
「仮に1年に1個としても、その作業をする十数人の魔導士を
1年無駄飯食わせておくようなものだからな。
衣食住の経費を考えただけでも採算が合わねえ。
狂気の沙汰だ。イカレてるぜ、バルド王国の暗殺部隊ってのは」
(敵の意表を突くってのは戦いの常道ではあるが・・・。
そんな狂気の作業を実際に実行するって、凄まじい執念だ・・・。
でも、確かにそれならカルタスでさえ予見するのは
不可能だろう・・・)
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