予定日数
とりあえず『報酬』の話は終わった。と、いうか幸太郎とモコが
何も欲しがらない上に、ジャンジャックとグレゴリオ、エンリイの
欲しいものはダンジョン破壊してから交渉したほうが良さそうな
シロモノだったからだ。
「でも、ジュリア様なら頼めば先にくれるかもしれないんじゃ・・・?」
「幸太郎の言うことも、可能性としては充分ありそうなんだが・・・。
ま、やる気を維持するための『ご褒美』にしておいたほうがいいだろ。
そのほうが頑張れるし、先に交渉して失敗したらガッカリして
士気に関わるかもしれん」
「そうだな・・・ジャンジャックの言う通りかもな」
「では、次は『予定日数』の話に入ろうぜ。一応、俺とゴリオで
おおよその予定を考えてみた」
ジャンジャックが提示した予定は次のようなものだった。
ダンジョンは地下15階と想定。
最初の3日で地下10階まで進む。
4日目で地下11階と12階を攻略。
5日目で地下13階と14階を攻略。
6日目で地下15階を攻略。
地下15階が最下層なら、これでダンジョンクイーンは逃げ出すはず。
もし、ダンジョンが成長を始めていたら、引き続き最下層を目指す。
「なるほど、約一週間で落とすってわけか。ちなみにジャンジャックと
グレゴリオ殿の破壊した地下18階ってダンジョンは何日かかったんだ?」
「10日かかったぜ。・・・と言ってもな。地下8階くらいから、
もう時間の感覚が曖昧になってた。食料の減り方から
『多分、何日経過した』って判断してただけで
実際には地上に戻って、初めて正確な日数は教えてもらった。
真っ暗になったら、もう何時間寝てたのかさえピンとこない。
薪の燃え具合から推測して、一応8時間は寝るって
決めてたけど、実際にはグダグダになってたな。
まあ、今回は幸太郎の時計の魔法があるから体調の管理は
はるかに楽だろうさ」
日光も無く、外の景色も無い、真っ暗なダンジョン。
眠っても、それがたった1時間だったのか
それとも6時間は寝てたのか・・・。薪の燃え残りから
推理するより他に手がかりが無い。
それを一週間以上。ジャンジャックとグレゴリオの苦労は
想像を越えるだろう。
幸太郎がムラサキからもらった『太陽魔法』
それは旅するためにもらった魔法だが、確かにダンジョン攻略には
非常に有効だ。幸太郎は再びムラサキに感謝した。ありがたやー。
「うーむ。ジャンジャックの話を聞くと、俺の責任は重大だな。
絶対に倒れるわけにはいかないな・・・。できるだけ、
朝や日没の感覚は大事にしよう。夕方6時から
翌朝の6時までは基本的に休息って考えでいいか?」
「実際は予定通りにはいかないだろうが、睡眠時間は大事だし、
無理も禁物だ。例えば4日目の午後2時に地下12階まで
攻略できたとしよう。時間的には余裕はあるが、
絶対に地下13階に手を出してはいけない。地下12階が楽でも、
地下13階が楽って保証は無いからだ。休息を優先する」
「了解だ。・・・これ、先に決めといて良かったと思う。
いざダンジョンに潜ってから決めてたら、もめてたかもしれないな」
「ま・・・俺とゴリオは実際に味わったからな・・・。
さて、ここでクロブー長老にお願いだ。俺たちが潜ってから
4日目以降は、絶対に誰もダンジョンに入れないでくれ。
もし、ダンジョンが地下12階や13階までだった場合、
4日目でダンジョンは壊れて陥没することになる。
『離脱』を持ってない奴は全員生き埋めだ。
人を入れないことを徹底してくれ」
「わかった。必ず3日目で周囲を立ち入り禁止ししておこう。
『アンカー』の護衛と共に、以後、人が入らないよう
見張りを立てる事を約束する」
「頼むぜ? クロブー長老。そして、もう一つ。
絶対に守ってもらわなきゃならねえ事がある」
「それは何じゃ?」
「それは『決して俺たちを探しに来ない』ってことさ。
例えば予定の日数を越えても、助けに来るなってことだ。
7日たっても、8日たっても、絶対に追いかけてはならない。
いったんダンジョンに潜ったら、連絡を取る方法はねえ。
後は俺たちを信じてもらうよりないんだ。探しにくる奴らが
例え『離脱』をもっていても、トラップにひっかかったり、
ボスと戦っていたり、と、『すぐに使用できない』状態ってのは
往々にしてある。そんな時にダンジョン破壊に成功したら、
救出部隊が生き埋めになるぜ?」
「ふむ・・・。わかった。それも約束しよう。おぬしらを信じよう。
だが、無理だと思ったら引き返すと約束してくれ。
例えダンジョンが成長を始めても、情報を基に対策が打てれば、
2度目は破壊に成功するかもしれんからのう」
「わかった。それは俺たちも約束しよう。
幸太郎、モコ、エンリイもいいな?
よし、ではこれを作ったからクロブー長老に渡して置く」
ジャンジャックは一枚の木製プレートを取り出した。そこには先ほどの
『約束』が書き込んであった。アンカーの護衛や、立ち入り禁止のこと、
そして、助けに来ないことを箇条書きしてある。
それをクロブー長老に渡した。
(C)雨男 2022/04/10 ALL RIGHTS RESERVED




