カルタスVSバスキー
カルタスとバスキーは、数秒にらみ合ったまま動かなかった。
距離は５メートルほど離れているだろうか。これが遠いのか近いのか、
幸太郎には全くわからない。
バスキーがニヤッと笑った。『では！』
バスキーは一瞬でカルタスとの距離を詰めた。速い！
だが、カルタスは全く驚いた様子もなく、バスキーの剣を受け止めた。
『ガインッ』という大きな音が鳴り響く。
ほんの数秒、つばぜり合いになり、お互いの力量を推し量ったあと、
同時に後ろへ飛びのいた。そして、今度はカルタスが仕掛けた。
やはり一瞬でバスキーとの距離を詰め、右からの袈裟斬りを撃ち込む。
幸太郎は目で追うのが大変だ。
カルタスの剣はうなりをあげて、バスキーの肩へせまる・・・が、
『空を切った』
幸太郎はぎょっとした。『カルタスが空振りをした』というのが
信じられない、もちろん初めて見た。
バスキーはその場で急激に体をかがめて、いや、伏せてと
言ったほうが正確か、カルタスの袈裟斬りをくぐったのだ。
信じられないスピード。
今度はバスキーだ。ミスリルの剣を右手で持ち、かがんだ状態から
カルタスへ向けて凄まじい突きを放った。まるで猛獣の牙だ。
当たれば鎧を着ていても貫通するだろう。
幸太郎の目にはバスキーの突きはカルタスに当たったように見えた。
だが、現実は違った。カルタスは袈裟斬りの勢いを殺さずに、
やや半身で右のガントレットを前に残し、バスキーの突きを
自分の左側へ軽く受け流した。『キキッ』と
金属のこすれる音が聞こえる。
当たれば普通の人間なら上半身が吹き飛ぶのではないか？
という壮絶な突きを、カルタスは顔色一つ変えずに右手一本と、
体さばきだけでいなした。
まあ、カルタスの顔は今はガイコツなのではあるが。
カルタスはそれだけではなかった。受け流した勢いのまま、
左側後方へ半回転。
左手の剣をバックハンドの横なぎでバスキーの首へめがけて撃ち込んだ。
だが、またもカルタスの剣は空を切った。
バスキーは右手の方へ倒れるように伏せて回避。
同時に右ひじと右膝を地面につけた状態で、左足の蹴りを
カルタスの胴へ向けてはなった。
『カルタスが２度も空振りした』ことに幸太郎は驚愕した。
やはりバスキーはとんでもない強さだ。おまけにファーストヒットは
どうやらバスキーの蹴りのようだ。
・・・と、思った幸太郎はさらに驚愕の光景を見ることになった。
カルタスはまるで『知ってる』と言わんばかりに、
バスキーの左足の蹴りを右足の裏で受け止めた。
カルタスが読んでいるのかはわからない。
だが、反応というよりは『可能性のひとつ』として想定していないと、
絶対に間に合わないはずだ。
これでバスキーは絶体絶命だ。右ひじ、右膝を地面につけて、
左の蹴りを受け止められた。今度は逃げられないだろう。勝負あった。
しかし、またも幸太郎の予想は外れる。
バスキーは『ぬん！』と気合を入れると、そのまま左足の蹴りを
『振りぬいた』
カルタスは実体化している鎧を着ているので、かなりの重量のはずだが、
バスキーの蹴りはカルタスを空中へ完全に浮き上がらせた。
幸太郎の身長より高い！
もう、全てが幸太郎の想像を越えている。
バスキーはニヤッと笑うと、ゆっくり起き上がった。
カルタスは重い鎧を着たまま、空中でふわりと後ろへとんぼ返り。
軽やかに着地した。鎧が少し遅れて『ガシャッ』と音を立てる。
「お見事。さすがカルタス殿」
「そちらこそ、お見事」
（Ｃ）雨男 ２０２２／０４／０５ ＡＬＬ ＲＩＧＨＴＳ ＲＥＳＥＲＶＥＤ
