エキシビジョンマッチ
「来い、『冥界門』・・・」
幸太郎が『冥界門』を呼んだ。その場の全員が
『おおっ』という驚嘆の声を上げた。
やはり『冥界門』を見たことのある人など1人もいない。
ジュリアたち、ドライアードすら目を見開いて驚いている。
幸太郎は拡声器を使って、カルタスたちとゴーストたちを
呼ぶことを、再度通達した。
『冥界門』が開く。カルタスたちが飛び出してくると、
一層大きな驚きの声が上がった。しかし、周知を徹底しておいたせいか、
悲鳴は全く上がらなかった。よかった。
「こちらの方々が、子供たちの救出に際し、
多大なご尽力を頂いた英雄たちです!
彼らはエルロー辺境伯の警護を瞬く間に打ち倒し、
捕らえられた子供たちの場所への血路を開いて下さいました。
彼らの力無くして、子供たちの救出の成功はありえませんでした!
皆様、どうかこの英雄たちに盛大な拍手をお願いいたします!!」
幸太郎が拡声器で叫ぶと、大歓声が巻き起こった。
大きな拍手が送られる。
ゴーストのみなさんは両手を挙げて応えた。
カルタスはまたも、てれてれに照れている。
そして、カルタスの部下4人は・・・新しい決めポーズで
カッコつけていた・・・。
それ好きなんだな・・・おまえら・・・。
と、そこへバスキーがしっぽを『もっさもっさ』と
振りながらやってきた。楽しみで仕方がないらしい。
「あなたがカルタス殿ですな? 私は白狼族、バスキーと申します。
噂はかねがね聞き及んでおります。どうか、一手、御指南願います」
「恐縮です。私などで良ければ、喜んでお相手いたします。
どうやら試合場もできている様子。では、早速始めましょう」
幸太郎は内心ハラハラしていた。なにしろ、2人とも試合をすることに
全くためらいを見せない。しかも、それは自信過剰などではないのだ。
その落ち着きぶりは、あきらかに2人ともくぐった修羅場の
数に裏打ちされている。呼吸を見ればわかる。
うわついた様子は無い。恐れや気負いも無い。
ブラック企業で営業もやっていた幸太郎には、彼らのセリフから
『完全にいつもと同じ精神状態』であることが、嫌と言うほど感じられた。
(これほど強い2人が試合って・・・。ただのエキシビジョンマッチで
終わればいいけど・・・)
幸太郎の心配をよそに、2人はさっさと試合場の中へ入った。
2人がすらりと剣を抜く。
「よし、幸太郎君! いつでもいいぞ! 開始の合図を頼む!」
「わかりました。『冥界門』を開けていられるのは、
あと5分ちょっとです。試合は今から5分きっかりとします。
なお、エキシビジョンマッチですので、魔法とスキルの使用は
禁止とします。純粋に剣技と体術のみでの勝負です。
それでは・・・はじめ!!」
観客から一斉に歓声があがった。
ジャンジャックとグレゴリオも最前列でかぶりつきで見ている。
モコとエンリイは幸太郎の横に陣取った。
カルタスVSバスキー。試合開始。
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