若いねぇ
「見よう見まねでいいんだよ。この構えは、
君がこれから使いこなして、自分の構えにアレンジすればいい。
大事なことは正式なフォームじゃないんだ。
この構えを作った人の想いを汲むことなんだよ。
当然、この構えを編み出した人がいる。その人が、どんな思いで
この構えを作ったのか・・・、どんな願いを込めて、
どんな祈りをこの構えに託したのか・・・。
それに君が思いを馳せるんだ。そして、いつの日か、
この構えに君の祈りが込められた時に、
この構えは君のものになるだろう」
「む、難しくて、よくわかんないよ・・・」
「それでいいんだよ。好きなだけ悩むと良い。
『答え』というものは、探せば案外簡単に見つかるものだ。
だが、『道』は悩んだ者にしか見えない」
「う、う~ん、なんか上手く誤魔化されたような・・・?」
「良きかな、良きかな。まあ、俺はおっさんだからな・・・」
ふと、周囲を見ると、みんな『前羽の構え』をやっていた。
お通夜状態は解除されたようだ。
ギャラリーの中にいたシバが近づいて幸太郎に言った。
「いやあ・・・すごい勉強になったよ。色々反省した。
君がこの村に来てくれて、本当に良かった。ありがとう。
・・・バスキー、どうも俺たちは、いつの間にか
お前の強さに頼りっぱなしになって
平和ボケしていたようだ・・・。
なんか幸太郎君を見て恥ずかしくなった。
これからは村の男たちで改めて自警団を作って、
もっと剣の訓練をしようと思う。出直しだ。
力を貸してくれるか? バスキー」
「ふふ、水臭いことを言うなよ、シバ。
俺も今日は幸太郎君に大いに刺激を受けた。
・・・世界は広いな・・・」
「良かったわね、レオ」
「姉ちゃん・・・俺、そろそろ起きてもいいだろ?
ずっと膝枕で恥ずかしかったんだからさ」
「あ。そうだったわね。ちゃんとご主人様にお礼を言うのよ?」
レオは立ち上がると、幸太郎に向かって言った。
「こ、こう・・・、今度は負けないからな!」
疾風のように走り去るレオを、幸太郎は微笑んで見送った。
「若いねぇ・・・」
レオは幸太郎がこの世界から消えたのち、
『天狼』という異名で呼ばれるようになり、
数々の英雄譚に登場するようになる。
しかし、その強さについて聞かれると、
彼は生涯同じセリフを繰り返した。
『正直なところ、親父や姉貴、そして幸太郎義兄さんには
まるで勝てる気がしないね・・・』
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