何かわかるかい?
チワのセリフはクリティカルヒットした。
ギャラリーなどお通夜になっている。
特にレオは完全に撃沈した。ちょっと痛々しい感じさえする。
「よ・・・よし、ではお待ちかね、実際の戦いの解説に移ろう!
俺が使った技も教えよう。解説の最後には2つプレゼントもあるぞ!
必ず強くなれるスグレモノだ! やったね!」
幸太郎のシナリオが崩れた。もうとにかく話を進めるしかない。
「さ、さて、俺がまず君の何を見たか?
それは君の構えを見たんだ。君の構えは体の左側を前に出す、
やや半身の構えだな。これは君が主に右手、右足の攻撃を
得意としていることを示している。
そして、こぶしを握り、高さはあごの下あたり。
これで君は防御より、攻撃が好きなことがわかる。
特にスピード重視だ。左のパンチのスピードに
自信があるんだろう?」
事実、幸太郎はレオのジャブもどきは全く見えなかった。
幸太郎は防御しなかったのではなく、防御できなかったのだ。
しかし、実戦では些細なことでしかない。
もちろん見えない速さは脅威で、恐ろしい武器ではある。
現代の日本でもボクシングのジャブは目に見えない速さだから、
絶対に避けられないという人はいる。
だが、戦場で相手の刀や槍の切っ先が
ジャブよりトロいなどという都合のいい話はない。
普通はとんでもない速さの上、リーチも軌道もジャブの比ではない。
『反応できないから当たっても仕方ないよね』などという、
物わかりのいいお利口さんはもれなく躯になる。
首ちょんぱになって死なないなら話は別だが。
『だからなんだ! 嫌だ! 俺は死なないぞ!
死にたくないんだあああ!!』
という、病的なまでに諦めの悪い人間が生み出したものが・・・
武術だ。
相手のほうがリーチが長い、攻撃が目に見えないスピードだ、
そこからどうやって命を拾うか?
これが武術にとってはスタートライン。
実戦ではただの前提条件でしかない。
わざわざ自分に見えるように剣を振ってくれる親切な敵など、
歴史上一人もいなかったのだから。
「だから、次はそれを撃たせないことにした。
俺はわざと無防備をよそおって、ズカズカと
歩いていったんだ。君は不思議に思っただろう?
さっき一発きれいにクリーンヒットしてひっくり返った男が、
そのパンチを全く警戒していない。君は混乱した。
そして今度は、君は俺を警戒した。
腕のガードを上げて防御重視に切り替えた構えになったね?
そして、君は距離があるうちに俺を倒そうと思った結果、
リーチがあって威力が高い、右足のキックを撃ち込むことにした。
・・・ここまでは俺が誘導したんだよ。
さらに俺はここから2つの行動で君の動きを操った。
・・・何かわかるかい?」
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