限界を越えないこと
アルカ大森林には冒険者ギルドは無い。
基本的に大森林でのトラブルは『あってないようなもの』
ドライアードがいるからだ。住民同士のトラブルは自分たちで解決するし、
万が一、森に無視できないダメージを与えるようなトラブルになった場合、
ドライアードの『気分次第』でどちらかが、あるいは両方が『消滅』する。
森には獣もいるし、魔物もいる。それらが住民を食ったところで、
ドライアードは全く意に介さない。それが自然の循環だから。
結局、冒険者ギルドがあっても、荒くれ者が集まって
治安が悪くなるだけなのだ。
それだけに今回の事態は完全に想定外と言えた。
「しかし、今からユタやカーレに募集出してたら
間に合わないんじゃないか?
ダークエルフからは人員は出せないだろう。
『リックスを差し置いて自分がパーティーに加わる』ことを
承諾する者はいないだろうし・・・。
ジャンジャック、そのダンジョン破壊はどのくらい猶予があるんだ?」
「ダンジョンが森の外に発生したのは2週間前らしい。
文献ではダンジョンは30日くらいで成長を始めるとあった。
細かい計算は、いずれ説明するが、潜って1週間で破壊すると
考えれば猶予は今日を含めて4日ってとこだな。
必ず30日って保証があるわけじゃないから
27日以内に絶対破壊する、と考えるべきだろ」
「4日か・・・。俺はユタしか知らないが、
往復するだけで終わってしまうな」
「現実的じゃねえな。パーティーのシェイクダウンもしなきゃならんし、
そもそも冒険者なら誰でもいいってわけにはいかねえ。
実力は言うまでもないが、1人で暴走するような奴だと
深層部でパーティーが全滅するぜ?
ダンジョン破壊で一番重要なことは『限界を越えない』ことだからな」
(『限界を越えない』ことか・・・。
やっぱり潜水艦のミッションに似てるな。
『なんとかなるだろう』みたいな計画を立てるとか。
土壇場で幸運や奇跡をあてにするようなメンタルの奴は、
実力うんぬん以前に生き残れないわけだ・・・。
そして、ポジションが欠けたパーティーは全滅の憂き目にあう・・・。
最初から最後まで計画通りに遂行できる奴だけが
目的を達成して生還できる・・・か。
難易度が高いな・・・。さて、困ったぞ・・・)
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