『後手にまわった』
「バスキーさん! 昨日はすいませんでした。
挨拶程度しかできなくて・・・」
「いいさ。人々を治療し、死産のはずだった胎児を救うとは・・・
大活躍だったみたいだな。モコが見込んだ男だけはある」
幸太郎は改めてモコの父親、バスキーを見た。
昨日はほとんど会話もできなかった。・・・恐ろしく強そうだ・・・。
多分、ジャンジャックやグレゴリオと互角か、
それ以上に強いだろう。狼を思わせる精悍な顔つきをしている。
「せっかくだ。改めて自己紹介からしよう。俺はバスキー。
モコの父親だ。こちらはパグル長老。村の長だ。そして、こっちが・・・」
「初めまして。幸太郎さん。私はポメラ。
モコの母親です。よろしくね」
「え? お母さんなんですか? ・・・姉妹じゃなくて?」
「まあ、お上手ね。こんなオバサンに・・・ふふふ」
幸太郎はポカンと口を開けて固まった。
見た目はモコそっくりだ。モコの方がちょっとだけ背が高く、
胸も豊かな分、ポメラより年上にさえ見える。ほんとに姉妹じゃないの?
モコは異世界から来た幸太郎の驚きを素早く理解した。
そっと助け船を出す。
「ご主人様。亜人や獣人は成人した後、
あまり大きく外見が変わらないのです。
お父さん、お母さん、ご主人様の故郷はほとんど人族ばかりの山奥で、
あまり亜人になじみが無いんですって」
「ほう。そうなのか? しかし、幸太郎君はまるで貴族のような
高い教養を感じるが・・・」
「でも、モコが気に入ったのも、うなずけるわねえ。
幸太郎さん、モコに優しくしてあげてね。
この子ったらドジでおっちょこちょいだから・・・
裁縫もまだまだで・・・」
「ちょ、ちょっと! お母さん!
今、そんな事言わなくてもいいでしょ!」
なんかホームドラマみたいな光景が幸太郎の眼前に展開している。
だが幸太郎は内心思った。
『しまった! ・・・やられた!!』
そう。幸太郎は昨日、途中から完全に忘れていたが、
本当はモコの首輪をバスキーたちの前で破壊する予定だったのだ。
モコは嫌がるかもしれないが、どこの馬の骨ともしれない男に
大切な娘を預けることを、両親が喜ぶはずもない。
幸太郎がモコに村に残る様に説得するとき、モコの両親は
必ず幸太郎の味方をするだろうと踏んでいた。
幸太郎が説得し、両親が引き留めれば、きっとモコは
旅についてくることを諦めるだろう。
だが、昨日、幸太郎は怪我人や病人の治療、
果ては死産の胎児の治療にかかりきりで
完全に忘れていた。その結果、『後手にまわった』
(C)雨男 2022/02/06 ALL RIGHTS RESERVED




