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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 2
393/1070

光速の17%


 幸太郎が外へ転げ出ると、民衆の目が一斉に注がれる。





「おお・・・聖者様だ・・・」



「『荒野の聖者』様だ・・・」



「いにしえの言い伝えは、真実の予言だったのだ・・・」





みんな口々に『聖者様』『荒野の聖者様』と念仏みたいに繰り返している。





(うわあああ! なんか変なデマが広がっているううう!)





幸太郎はとりあえず、モコたちに演説をやめれ、とストップをかけた。



クロブー長老が怪訝な顔をして、幸太郎に質問してくる。





「しかし・・・幸太郎様は伝説の『荒野の聖者』様なのでございましょう?」





「いいえ、人違いでおま」





幸太郎は仏頂面で答えた。幸太郎は頭がぽんぽこぷーの、



ただのおっさんである。



クロブーは『なるほど』と満足げに答えてから、



民衆のほうへ向き直った。





「みな、心して聞くのじゃ! 聖者様は邪悪な者どもに


狙われる御身である。わしらで聖者様をお守りせねばならぬ。


よいか! 決して、幸太郎様が『荒野の聖者』様で


あることを口外してはならぬぞ! 森の外からくる者はもとより、


この森の出身でも、絶対に正体を明かしてはならぬと心得よ! 


今、この時より、幸太郎様を聖者様と呼ぶことは、あいならん! 


昨夜は3人のドライアード様も幸太郎様を祝福に


お集まりになられた! 幸太郎様をお守りすることは、


アルカ大森林の意志と知れ!」





民衆がどよめき、歓声が上がった。





「そうだ! 俺たちの手で幸太郎様をお守りするのだ!」





昨日、最初に左手の薬指と小指を治した男が、



これ見よがしに左手を突き上げて叫んでいる。



まさに手のひら返し・・・。








幸太郎はめまいがした。





(な・・・何かが、間違った方向へ光速の17%で進んでいる・・・)





だが、もう打つ手が無い。誤解を解く方法は思いつかない。



せめて、昨日の時点で否定しておけば・・・。



モコたちに何も言わないように釘を刺しておけば・・・。



しかし、過ぎたるは及ばざるが如し。手遅れ。








そもそも、発端は自分のマヌケな大失態なのだ。










(C)雨男 2022/02/05 ALL RIGHTS RESERVED





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