喜んで
幸太郎が2階から何を見たのか?
宿屋の前に人だかりができていた。そして、その人だかりの前で
演説のように話しているモコ、ジャンジャックとグレゴリオ、
チワ、そしてクロブー長老の5人が見えた。
「そう。幸太郎は小狼族の犠牲者を成仏させると、
不思議な歌を歌ったんだ。どこか懐かしく、
心が救われるような歌だった・・・。その歌にのって、犠牲者の魂は
笑顔で、安らかに、高く高く、天へ昇っていったんだ・・・」
「ご主人様は、邪悪なエルロー辺境伯の奸計を見抜き、
その策謀を打ち砕きました!
そして、エルロー辺境伯の鼻をへし折り、言ったのです!
『お前はただの馬鹿だ』と!
エルロー辺境伯は顔面蒼白になって、逃げようとしましたが、
ご主人様はそれを許さず、天誅を下したのです!!
悪が滅んだ瞬間でした!」
「幸太郎殿は、あえて無用な死人を出さない様に
警備隊を煙に巻いたのだ。幸太郎殿の残したメッセージで
警備隊は右往左往、何から手を付けていいのかわからない状態。
幸太郎殿は門を強行突破することもできたが、
それで死ぬ警備兵を哀れに思ったんだ。
一概に敵だからと命を奪うことを良しとせず、
敵にも情けをかけたのだよ・・・」
「チワはね、エルロー辺境伯に捕まって、
耳を切り落とされて、体中に針や釘を刺されたの。
目にも釘を打たれて、何も見えなくなっちゃったの。
痛くて痛くて、とっても怖くて、でも涙もでなかったんだ。
もう死んじゃうんだって諦めていたけど、幸太郎お兄ちゃんが
現れて、全部、きれいに治してくれたんだよ!
耳も、目も、全部傷一つ残らず!
チワは思ったんだ。神様が御使いを天から送って下さったんだって!」
「皆も知っての通りじゃ。キーテの妻、
エリーのお腹の子は死産のはずじゃった。しかし、
幸太郎様は諦めることなく、回復魔法をかけ続けた。
エリーすら諦めかけた時、幸太郎様はわしらをお叱りになった。
『母親がこの子の味方をしなくて、いったい誰がこの子の
味方をするんだ』と・・・。
それは厳しくも温かい、目の覚める叱責じゃった。
そして、赤子は奇跡の光によって助けられ、
昨夜、無事に生まれたのじゃ・・・」
それぞれが集まった民衆に向かって感動的に話をしていた。
女性たちは全員涙ぐんでいる。
男たちも『今日はやけに太陽が目にしみるぜ』とか言いながら、
涙をこらえていた。新たに集まってきた人々も
『今来たんだ、もう一回お願いできないか?』とアンコール。
モコたちが『喜んで』と爽やかに応じている。
幸太郎は慌てて服を着ると、階段を転げ落ちるように降りてきた。
「ちょっとおおおおお!! みんな何やってんのおおお!!
恥ずかしいからやめてえええぇぇぇ!!!」
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