ムラサキの忠告
「あ、あの。お話ってなんでしょうか?」おれ、なんかした?
「・・・。少しいやな話をしますね・・・。本当は、私たち神や天使が
言っていいことじゃなんだけど・・・。幸太郎君がこれから降りる地上は、
死というものがとても身近な世界なんです・・・。生と死は本当に背中合わせ。
悪い人もいる・・・魔物もいる・・・戦いになれば相手は
必ず殺しにかかってくる・・・」
ムラサキは小さく息を吸った。
「幸太郎君、もし戦いになれば迷わないで下さい。戦いが始まれば、
ほとんどの場合、どちらかが死にます・・・」
「・・・。わかりました。ご忠告は胸に刻んでおきます。ありがとうございます」
「私たちは『相手を殺せ』なんて言ってもいけないし、
特定の誰かに肩入れしてもいけないんだけれど・・・。
幸太郎君はなぜか『死んでほしくない』って思ってしまうの。
アステラ様も同じですよ? あなたの前任者には『神虹』なんて
授けなかったもの。あんな強力な魔法なんて『どうしようもなくなったら、
全て問答無用で吹き飛ばせ』って言ってるようなものですから」
ムラサキはくすくすと笑った。この人はなんか学校の憧れの上級生みたいで
ちょっとドキドキする。
「なるほど・・・。それで」
幸太郎は納得した。たしかに中途半端な攻撃魔法をもらっても
事態が決着するかはわからない。
しかし、『神虹』ならばどんな犠牲が出て、どんな結末になっても
『事態は決着する』
「愛されているんですね・・・俺。ありがとうございます、ムラサキさん」
その言葉を聞いたムラサキは少し赤くなった。
「え。ええ、そうですね。みんな幸太郎君を愛しています。
どうか死なない程度にがんばって下さい」
ムラサキは幸太郎の顔を引き寄せると、額に軽くキスをした。
「おまじないです。幸太郎君に幸運がありますように」
ムラサキは指をふいっと回すと、空間にゲートが開いた。
「さあ、戻りましょう。アステラ様がお待ちです」
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