おろおろ
しかし、穏やかな空気は続かなかった。
「う・・・生まれる・・・」
幸太郎とクロブー長老がぎょっとした顔になる。『え? もう?』
「ど、どうすれば??? そ、そうだ、なんか漫画で
お湯を沸かしていたような! み、水を!
あ、俺、水出せるんだった。ヤカン、ヤカン」 わたわた
「お、落ち着け、落ち着くのじゃ! 長老はうろたえない!
今日はもう遅いから明日に・・・
いや、ち、違う! そうじゃ、ウメばあさん、
ウメばあさんを呼ぶのじゃ!」 おろおろ
「あたしゃ、さっきからずっとここにいるよ」
「え? ウメばあさん、いつからそこに・・・。
いや、そんなことより大変じゃ!」
「落ち着かんか! まったく男どもは
肝心な時に役に立たないねぇ・・・。
あたしが今まで何人赤ん坊をとりあげたと思ってるんだい。
ほれ、男どもは邪魔じゃ」
幸太郎とクロブー長老は仲良く外へ放り出された。
しかし、ウメばあさんの手が伸びて幸太郎の
襟首をがっしり掴んで、部屋へ引き戻した。
「お前さんは回復魔法が使えるんじゃろ?
なら、お前さんはここで待機じゃ。
万一に備えておけ。とりあえず、あたしら女が準備をするから、
そこで座っとれ」
幸太郎はお産に立ち会うなど経験がない。
そもそも幸太郎は恋人さえいなかったのだ。
幸太郎はせめて自分にできることをしよう、と部屋の甕に
『洗浄』をかけて『飲料水』で水を貯めた。
もっと出せというので、さらにずん胴鍋も出して水を貯めた。
しかし、もうそれ以上できることはなくなったので、
あとは大人しく部屋の隅っこでおろおろしながら
見守るより他なかった。
そして、ついに部屋の中に産声があがった。
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