『様』?
幸太郎は周囲がどよめいていることに気が付いた。
みんなこっちを見て、何やらブツブツつぶやいたり、ささやいている。
『伝説の・・・』『間違いない・・・』『古き言い伝えが・・・』
『そうだ・・・』『荒野の聖者様だ・・・』
『聖者様・・・降臨なされた・・・』
幸太郎は何やら嫌な予感がした。だが、今は構っていられない。
幸太郎は椅子を取り出すと、そこへ座って、治療のスピードを
あげることにした。もう日が沈む。
ふと見ると、行列はさっきの倍、
200人くらいいるように思えた。ひー。
必死に治療を進める幸太郎。そこへモコの村から
長老とモコの父親、バスキーがやってきた。
お互いに挨拶はしたものの、幸太郎は大行列の治療を
しなくてはならない。結局、話はまた後で、ということになり、
モコ、ジャンジャックとグレゴリオ、救出した子供たち、
女性陣は先にモコの村へ行くことになった。
幸太郎は残って治療を進める。
完全に日が沈んだ。幸太郎は『陽光』を6個だして、
周囲を照らした。
(つ・・・疲れてきた・・・。太陽神の加護のおかげで、
無限に治療はできるけど、俺の体力と気力のほうが持たない・・・)
とにかく治療を続けなくては。
幸太郎は治療を続けるうちに、段々と患者の様子が
おかしくなってきたことに気が付いた。
果物を置いて行く人。そのうち、目をキラキラさせて
握手を求める人が現れだした。
幸太郎はますます嫌な予感がしてきた。
夜が進み、幸太郎も腹ペコになったころ、
ようやく残り10人ほどになった。
やっと終わると思った時、一人の妊婦が現れた。
クロブー長老が付き添っている。
「お願いです! この子を! お腹のこの子を助けて下さい!
どうか、どうか・・・」
「幸太郎様。この娘のお腹の子供を
治療してやっては下さらんか・・・。無茶は承知ですじゃ」
何か事情があるようだ。『無茶』という言葉を使った。
つまり・・・本来助かる見込みが無い・・・ということだろう。
幸太郎は、まず話を聞くことにした。
ところで、今、幸太郎『様』って言ったな?
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