君は差別しないんだな
最初、幸太郎の前には30人くらいの行列ができた。
しかし、今は100人以上並んでいる。なんか怪我人が多い気がするが、
古傷も含めればそんなものかもしれない。見慣れない種族もいる。
幸太郎は観念してせっせと治すことにした。
幸太郎はアントレイスを初めて見た。昆虫人だ。
丸っこい頭、丸っこい体。意外と可愛い。
幸太郎は本が好きだ。子供の頃は昆虫や魚の図鑑がお気に入り。
アリさん、アリさん。
「あの・・・この子の手が・・・」
幸太郎は快く、子供の手を復元した。
アントレイスは手が4本ある。興味深い。
周囲の目が、若干不思議そうだった。
(ああ、俺が亜人を差別しないのが意外なのかな?
大した違いは無いのにな・・・)
幸太郎が治療を続けていると、意外な人物が現れた。
それはブロトの商館にいたリザードマンだった。
「やあ、その節は世話になったね。まさか君たちもアルカ大森林を
目指していたとは驚いたよ。それなら、君たちについていけば
良かったかな。ところで。私も治療してもらえるかな?
逃げるときに矢が肩に刺さってね・・・。ん? 驚かなくていいよ。
君は仮面を外しているけど、匂いは同じだからわかったのさ」
「なるほど。しかし、よく逃げることができましたね?
いったいどうやって?」
「あんまり思い出したくないけど、下水を必死に逃げて、海へ出たのさ。
あとはピートス川を遡ってここまで来た」
「それは苦しかったですね・・・。では傷を見せて下さい。
む、少し化膿してますね。すぐ治します」
幸太郎は『陽光の癒し』を唱えた。
「本当に無詠唱なんだな・・・。それに聞いた通り、
すぐに治った・・・。こりゃすごい。
それに・・・。噂通り、君は私たちを差別しないんだな」
「魂はみんな一緒ですよ」 幸太郎は笑った。
「君は面白いことを言うなあ。俺はドーリ。君は幸太郎だな。
アルカ大森林はいつでも君たちを歓迎するよ」
「そうだ。その隷属の首輪、今壊しますよ」
言うが早いか、幸太郎はアザラシゴーストを呼ぶと、
首輪を破壊した。わずか3秒くらい。
「な、なにい!? 首輪が・・・? こんなにあっさり・・・。
君はいったい?」
「まあまあ、かくし芸みたいなもんです。気にしないで」
幸太郎とドーリは握手して別れた。
幸太郎は少し申し訳ない気分だった。
奴隷に金を持たせて解放したのは100パーセント
幸太郎の都合だったからだ。囮にするための。
(それにしても、下水を逃げて海へ・・・か。すごい奴だなあ・・・)
(C)雨男 2022/01/30 ALL RIGHTS RESERVED




