ヤケクソ
『おおお・・・』周囲のダークエルフたちから驚嘆の声が上がった。
「なんと美しい・・・」
クロブーも驚いている。だが、一番驚いたのは
そのガタイのいいダークエルフの男だった。
「な、なんだ、こりゃあ!? 指が・・・指が・・・。
俺の失った指が・・・!」
その男の傷口に光が集まり、指の形になる。
そして、光が収まってくると、中から本物の指が現れた。
男はぐっぱ、ぐっぱと手を握ったり、開いたりした。
「ま、間違いねえ! こ、これは俺の指だ・・・。見慣れたしわまで、
完全に俺の失った指だ・・・。戻ってきた・・・。俺の指が戻ってきたあ!」
男は狂喜乱舞しながら、どこかへ走っていってしまった。
多分、家族に戻った指を見せにいったのだろう。
「いかがですか? クロブー長老・・・」
幸太郎が言い終わる前に、もう一人男が割り込んできた。
「ちょ、ちょっと待て! お前、これも治せるか・・・?」
その男は右足の膝から先が無かった。
「お、おい、お前さんの右足はもう20年も前の・・・」
クロブーが言いかけたとき、幸太郎はすでにその足を治した。
光が足を型取り、その光の中から本物の足が現れる。
「お、おれの・・・俺の・・・足・・・ああ、ああ、神よ!
俺の・・・足・・・」
男は杖を投げ捨てると、奇声をあげて
すごい勢いでどこかへ走っていった。
チワが前に進み出ると、大いばりで宣言した。
「どう? 幸太郎お兄ちゃんの光!
すごいでしょ! なんでも治せるの!」 えっへん
そのチワの宣言を皮切りに、ものすごい歓声があがった。
そして、幸太郎の前に行列ができた。
『私も!』『俺も!』『右目が・・・』『肩が・・・』
『腰が・・・』『熱が・・・』
さらに。
『虫に刺されて・・・』『お尻がかゆくて・・・』
『いぼぢが・・・』『五月病が・・・』
(あー! チキショー! いいよ、治すよ!
全部治すよ! コンニャロー!)
幸太郎はヤケクソになった。自業自得である。チーン。
(C)雨男 2022/01/29 ALL RIGHTS RESERVED




