クロブー長老
「まことに申し訳ありませんが、このままあなた方の代表、
または長老の所へ案内して欲しいのです。そこであなた方の縄を解きます」
「な、なんだと? お前たち、やっぱり・・・」
「いいえ、違います。ただ、行き違いがあったとはいえ、
私たちはお互いに攻撃しました。
もし、あなた方の中に先ほどの事件を不愉快に思う人がいて、
縄を解いた後に私たちを攻撃してきた場合・・・。
今度こそ、あなた方は死にます。私たちはそれを望みません。
こちらにいる2人・・・ジャンジャックとグレゴリオはB級冒険者です。
彼らが本気で反撃した場合、もう到底、治療は不可能です。
そして、見ての通り私たちは救出した子供たちと、
開放した女性が8人います。もう手加減はできないのですよ・・・。
どうかご理解下さい。あなた方の代表と正式に終戦の話をして、
住人の方々にも『話がついた』ことを知って欲しいのです。
話を大げさにしたくはないのですが、
子供たちを守るために、こちらも手順を踏む必要があるのです」
幸太郎は自分で言ってて、情けなくなった。
そんな『終戦』の話を相手の代表としなくてはならないのは、
自分の馬鹿のせいだからだ。
しかし、こういう時は一見不必要に思えても、
必ず一度『話を大きくする』必要がある。
後から『こんな目にあった』、『痛い思いをした』ということが
広がると恐ろしい事になる。中途半端に情報を聞いた人は
『話がついた』ことを知らずに敵対し、中には幸太郎たちに
襲い掛かる者さえ出るかもしれない。一つ一つ誤解を解いていては
キリが無い。そして、最悪の場合、誤解を解く前に死者が出るかも
しれないのだ。引き返せなくなってしまう。
だからこの手のトラブルは『話を大きくした上で』、
起きた事件と、話がついたことをセットで広めるしかない。
そうすれば誤解する人が出たとしても、周囲の人が誤解を解こうと
するだろう。非常に面倒ではあるが、手順を踏まないと
不幸な未来を招くことになってしまう。
だが、幸太郎の思いをよそに、見張りの面々はみんな
ジャンジャックとグレゴリオを見ている。
そして口々に『B級冒険者・・・』『B級冒険者なら・・・』と
ぶつぶつ言っていた。
なんか、やけにこだわる様子に違和感を覚えたが、
とりあえずそれは今、問題ではない。
顔を上げたリックスが幸太郎に言った。
「わかった。そちらの言い分は確かに正しい。
俺もお前の立場なら、そうしたかもしれない。
このまま長老の所へ案内しよう。俺たちの縄はこのままでいい」
「ご理解いただきありがとうございます。約束は必ず守ります」
リックスと見張りたち、幸太郎一行はダークエルフの村へ到着した。
木が家になっている。
ファンタジーな光景にしばし見とれたが、
周囲のダークエルフが敵意満々で集まってきたので
観光気分は一発で吹っ飛んだ。
それもこれも幸太郎が自分で招いた結果だ。
リックスが事情を説明して長老を呼んでもらう。
長老はすぐにやってきた。
背の高いひょろっとした男。エルフは髭が生えないと聞くが、
この男は、あごひげを少し生やしていた。しわもある。
見た目より年配なのかもしれない。いや、混血だろうか?
「この村の長老、クロブーじゃ。事情は少し聞いたが、
もう一度詳しく聞かせてくれんか?」
(C)雨男 2022/01/29 ALL RIGHTS RESERVED




