まだ、ほどくわけには
幸太郎はモコに心底感謝していた。
モコが樹上へ駆け上がり、見張りの首を折って叩き落してくれたからこそ、
『治療する機会』ができたのだ。
先ほど、ジャンジャックとグレゴリオが臨戦態勢になるのを、
幸太郎は初めて見た。
『恐ろしかった』
見張りは樹上に陣取り、弓を装備、こちらに
遠距離攻撃できる武器は無い。しかし、この状況で
ジャンジャックとグレゴリオはまるで焦りをみせなかった。
(つまり・・・。この状況でも相手を皆殺しにできる
手段があるってことだ・・・)
モコがいてくれて本当に助かった。
もし、ジャンジャックとグレゴリオが本気で反撃する
事態になっていたら、見張りは全員死んでいただろう。
もう治療どころではない。
幸太郎が必死になって『陽光の癒し』をかけ続けた結果。
なんとか全員助けることができた。
逆様になった首が『ぐるん』と元に戻る光景は
いささか気味が悪かったが・・・。
最後に蹴り落された、女性のダークエルフも治療する。
足、腕、あばらも何本か折れている。
もしかしたら一番痛かったのは彼女かも。
彼女が最初に目をさました。そして、
「痛!・・・く・・・ない? え? なんで?」
と、驚き、さらに
「ええ? みんなの首が・・・? 元に戻った・・・?
えええ? 生きてる?」
ポカンと口を開いた状態で固まった。
幸太郎はまず、一言謝ってから
『全員、私が回復魔法で治しました』と伝えた。
「あなたが治療したのですか・・・? 本当に?
確か全員首を折られていたはず・・・」
「はい。私の回復魔法『陽光の癒し』です」
幸太郎は再び『陽光の癒し』を彼女にかけた。
「これは! ・・・なんて美しい魔法・・・」
幸太郎が自分たちの事情を説明しようとした時、
他の見張りも目を覚ました。
幸太郎は彼らに、小狼族の依頼でエルロー辺境伯から
子供たちを救出したいきさつを説明した。
「うーむ・・・。本当にあのエルロー辺境伯から・・・?
しかし、確かに小狼族の子供たちだな・・・。村が人狩りに
焼かれたという話は聞いている」
見張りのリーダーの男はリックスと名乗った。
しかし、エルフってのは美形だな・・・。
「まあ、なんか行き違いがあったのはわかったよ。
こっちもちょっと気が立ってたんでな。
俺たちもあんたの胸を弓で射たし、とにかく怪我も治っているから、
お互い様ってことで水に流そう。
そろそろ縄をほどいてくれないか?」
「申し訳ありません。まだ、ほどくわけにはいかないのです・・・」
幸太郎は深々と頭を下げた。
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