困る
幸太郎はダークエルフの見張りに『陽光の癒し』をかけ続ける。
幸太郎は、以前読んだ本を思い出していた。
そこには次のような記述があった。
『漫画のように首が折れても即死することは、まずありません』
本当かどうかは疑わしいと思っていたが、今はそこに賭けるしかない。
それに、仮に心臓が停止していても、脳はまだ死んでいないはず。
魂が抜けていないのならば、
致命傷すら修復する『陽光の癒し』で全員回復するはずだった。
幸太郎の額から汗が噴き出す。
(急げ、急げ、急げ・・・)
幸太郎ははらわたが煮えくり返る思いだった。
(くそっ、くそっ、くそっ・・・。馬鹿か俺はっ!!!)
そう。この事態を招いたのは幸太郎本人だ。
他の誰のせいでもない。大失態だ。
幸太郎は、小狼族の新しい村がアルカ大森林に
作られていると聞いていた。そのため、
アルカ大森林に到着した幸太郎は、勝手に
『味方の陣地に帰ってきた気分』になっていた。
馬鹿もいいとこである。
アルカ大森林全てが、小狼族の新しい村なわけでもない。
アルカ大森林に小狼族しか住んでいないわけでもない。
おまけに小狼族が人狩りに襲われて、
村を焼かれたという情報で、見張りは殺気立ち、
攻撃的になっていたのは当たり前のことだ。
そして、なにより、幸太郎はまだ一度も
アルカ大森林の住人と会ったことがない。
当然、向こうにしても、幸太郎は
『人狩りかもしれない怪しい奴』でしかない。
いきなり殺すつもりで弓を射たのは、確かにやり過ぎかもしれないが、
いきなりズカズカと近寄っていった幸太郎が
事態の引き金を引いただけのこと。
幸太郎が死ねば、モコやジャンジャックとグレゴリオが
本気で反撃するだろう。
逆に、見張りが死ねば小狼族の新しい村の立場が悪くなる。
最悪、森から追い出される可能性すらある。
『自分が死ぬのも困る、見張りが死ぬのも困る』
是が非でも見張りを治す必要があった。
(C)雨男 2022/01/27 ALL RIGHTS RESERVED




