矢
幸太郎は樹上から何かが飛んでくるのを見た。
『矢』だ。
それは高速で、一直線に幸太郎目掛けて飛んできた。
幸太郎は矢が飛んでくるのはわかったが、
きょとんとしたまま、それが自分の胸に突き刺さるのを見続けた。
胸に激痛が走った。
幸太郎はようやく我に返った。血が噴き出している。かなりの出血。
(まずい! これは心臓ではないが、
おそらく心臓から出る大動脈をやったな・・・)
幸太郎の視界が急激に狭まりつつある。
事態に気づいたジャンジャックとグレゴリオが駆け寄ってくる。
ジャンジャックは剣を抜いた。
グレゴリオは『マジックボックス』からタワーシールドを取り出して構える。
幸太郎は意識が無くなる前に『陽光の癒し』を自分にかけた。
2回目で痛みが和らいだ。
5回目には幸太郎の体が矢を『プッ』と吐き出した。
とりあえず、これで大丈夫。
「幸太郎! 大丈夫か? それが『陽光の癒し』か、
すげえ威力だな・・・」
「ゴホッ、ゴホッ、せ、説明は後だ、見張りは・・・」
幸太郎が言いかけた時、目前で見張りが『降ってきた』
・・・しかも、ボタボタと樹上から次々に落ちてくる。
幸太郎はぎょっとした。
落ちてくる見張りは、全員首が逆様にねじ曲がっている。
・・・モコがちらっと見えた。
どうやらモコは『ラピッド・スピード』を使って木を駆け上がったらしい。
しかも、凄まじい怒りの形相が見えた。見張りを全員殺す気なのだ。
「モコ! 1人残してくれ!」
なんとか声が出た。幸太郎は立とうとしたが、
まだそこまで回復できてない。
引き続き『陽光の癒し』をかけ続ける。
「ジャンジャック、グレゴリオ殿、
落ちてきた見張りをここへ集めてくれ! 頼む!」
「え? どうすんだ? もう全員・・・」
「治す! 死なせるわけにはいかないんだ! 急いでくれ!」
ジャンジャックとグレゴリオが落ちてきた見張りを集めてくる。
そして、見張りの最後の1人が悲鳴を上げて落ちてきた。
モコが蹴り落したのだ。
最後の見張りは女性のダークエルフだった。
彼女は地面でワンバウンドすると気絶した。
「モコ、ありがとう。そいつを縛っておいてくれ。
俺はこの見張りを治す。治ったやつから同じく縛ってくれ!」
幸太郎の両手が金色に光る。
(死なせるわけには・・・いかない・・・。なんとしても治す・・・)
(C)雨男 2022/01/27 ALL RIGHTS RESERVED




