しれっと
「うむ・・・。いや、俺は納得がいった。ずっと気になっていたんだ。
エルロー辺境伯の黒い噂を耳にしてからは、
『なんでそんな事をするんだ』って不思議だったんだよ。
幸太郎殿はよく見ているな。エルロー辺境伯の寝室からそこまで読み取るとは」
「いや、これはファルネーゼ様の寝室を最後に見たからさ。
子供たちの救出が終わったから、最後にファルネーゼ様とイネス様に
『お騒がせしました』ってお詫びに行ったんだ。
ファルネーゼ様の寝室は簡素だった。しかし、ベッドの天蓋や机、
椅子、全て上質なものを使い、職人が手間をかけたものに見えたよ。
比べてみて初めて気が付いたのさ。あの男の内面に。
最初に辺境伯の寝室を見た時は、そのゴテゴテとした
くどい装飾にイラっときただけだったさ。あははは」
「お? 幸太郎はファルネーゼ様に会ったのか? なんか言ってたか?」
「いいや、特には何も。ただ、今までずっとエルロー辺境伯に
切り刻まれるかもしれない恐怖におびえて暮らしていたそうだ。
まだ若いから人生はやり直せるだろう。
幸せになってほしいものだ。しかし、ユタの町はどうなるのかな?
嫡子はいないそうだから、他の貴族が来るのかな?
モコはどうなると思う?」
「さあ・・・。私は政治にはうとくて・・・。
でも、国境の町ですから、誰かが代わりにやってくると思います」
「まさか戦争の火種になったりしないよな・・・?」
「それは無いから安心しろよ、幸太郎。
俺とゴリオはカーレの町にもいたんだが、
領主のグリーン辺境伯の娘はファルネーゼ様と仲がいいらしい。
文通してるって噂もあるぜ?
そもそも攻め込むつもりなら、コルトの馬鹿の戦争の時にやってるさ」
「ジャンジャックの言う通り、戦争の心配はないだろう。だが・・・。
エルロー辺境伯の噂が事実だったことは知れ渡ったからな・・・。
まあ証拠は出てこないから、王国は『知らぬ存ぜぬ』で通すだろうが、
後任は誰もが嫌がるだろう。俺の勝手な予想だが、案外、
当分ファルネーゼ様が代行として治めるんじゃないか?」
「そうだといいな・・・。もう俺がユタの町に入ることはないだろうが、
流血沙汰は無いに越したことはない・・・」
幸太郎は盗賊を逮捕せずに、全滅させたことを棚に上げて、
そんなことをしれっと言った。
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