汗をふきふき
彼女たちの中で一番ひどいのは、背中に4個も焼き印をされている人だった。
同じマーク。おそらく『きれいに焼き印が入らなかった』とでも言われて、
何回も焼けた鉄を押されたのだろう。
「『陽光の癒し』・・・『陽光の癒し』・・・『陽光の癒し』・・・」
幸太郎は回復魔法をかけ続けた。回数はどうでもいい。
『治る』までかけ続けるだけだ。
一回目からすでに効果は表れていた。気のせいか、最初の
馬の骨折を治した時よりも効果が上がっているように思える。
幸太郎は怒っていた。
(もし、犯人を見つけたら、そいつの顔にも4つ焼き印をくれてやる・・・)
もしかしたら、怒りが魔法の効果を引き上げているのかもしれない。
彼女たちの背中の傷は、どんどん消えていった。
焼き印の跡さえ薄くなっていく。
女性陣は歓声をあげた。『治っていく、治っているわ!』
そして、およそ数十秒で全ての傷跡は完全に消えて、
ゆで卵みたいなつるんとした肌の背中になった。
「ああ・・・治った、治ったわ! もう背中がつっぱらない・・・」
「あの醜い焼け跡が・・・。ああ、こんな日がくるなんて!」
「触ってもでこぼこしてない・・・。普通の体に戻った・・・」
人族の女性4人は、上半身が裸なのも忘れて
幸太郎に抱き着いて、口々にお礼を言った。
「ちょ、ちょっと待って。みなさん、服、服!
服を着て! 服を忘れてます!」
幸太郎は真っ赤だ。
「あら、いけない。嬉しくてつい」
「私は別にいいけれど?」
モコがじろっとにらんだ。
「や、やあねえ、冗談ですよう・・・」
幸太郎は額の汗をふきふき言った。
「みなさん、からかわないで下さい・・・」
その場にいた女性全員が同じことを思った。
『意外な弱点発見・・・』
人族の女性のうち、2人が幸太郎に小声で言った。
「じゃあ、2人だけの時にね・・・」
モコには聞こえた。モコが口をへの字にして釘をさす。
「そんな日は永遠にきません!」
彼女たちは急に明るくなった。
ずっと背中の傷を気にしていたのだろう。
これで首輪も無くなったし、焼き印も消えた。
きっと幸せな結婚をして、幸せな生活がやってくるだろう。
彼女たちはアルカ大森林に定住するのだろうか。
町に戻るのもいいかもしれない。
今日、彼女たちを縛る過去の鎖は全て断ち切られたのだから。
(C)雨男 2022/01/19 ALL RIGHTS RESERVED




