番外編 秘密の話 2
「まあ、十中八九、間違いないさ。幸太郎は会った時から、
色々不思議な男だった。君も当然気が付いているだろう?
彼の物腰などは、貴族以外には有り得ないものだ。
しかし、彼ほど貴族らしくない男は、この世界にいない。
高度な教育を受けたはずなのに、平民・・・。
彼はそんな世界から来たのだろう・・・」
「それは確かに感じましたわね・・・。
ファルネーゼ様もそれは思わず口に出してしまっていました。
ファルネーゼ様は幸太郎様が、ずいぶんと気に入ったご様子でしたよ・・・。
ファルネーゼ様も侯爵家の出なのに身分や格式が苦手ですから。
多分、自分に近いものを感じたのでしょう」
「ファルネーゼ様は侯爵家に戻るのかい?」
「戻っても・・・。一生屋敷からは出れないかもしれませんね・・・。
夫が殺人鬼だったなんて話はあまりにも貴族には不名誉に映るでしょうから。
縁談は、おそらく永遠に来ないでしょう。誰が妻に娶っても、
必ず周囲から奇異な目で見られるのは避けられないわ・・・」
「それは、あまりにも可哀そうだね・・・。
幸太郎に任せるのもいいかも・・・な」
「でも、あの小狼族の娘がいるのではなくて?」
「うん、まあ、モコは幸太郎に完全に惚れているから、
幸太郎がどんなにあがいても『第一夫人』は決まりだろう。
幸太郎は優しいから最終的には折れる。これは間違いないよ。
彼はブロトの商館から予定外の女性の奴隷を4人も連れて帰ってきた。
幸太郎以外の奴なら、奴隷など見捨てて帰ってくるところだよ。
でも、彼は『できなかった』・・・。相手の身分に関係なく
女性4人に『助けて』と言われたら、幸太郎の方が折れてしまった。
幸太郎は、女性からの押しに弱い。
多分・・・幸太郎は女性経験が無いんだろう・・・。
ただ、僕の見立てでは、優しいからこそ妻は最大で
3人まで・・・だろうね。
彼は決してそれ以上の妻は持てないだろう。公平に扱い切れない、
と彼は考えるだろうから」
「では、なんとかその『3人』にファルネーゼ様を
入れてもらえるように頼んでみましょう。
侯爵家に戻って、あとは何もすることがなく、
ただ死を待つだけなんて・・・。
国家の都合で、成人前に勝手にエルロー辺境伯の妻にされて、
『次は自分が切り刻まれる番か』と毎日怯えて暮らし・・・、
やっと恐怖から解放されたと思ったら、
あとは死ぬ以外にすることがない・・・。
そんな一生が押し付けられたままで終わるのは、あまりに不憫です」
「同感だね。僕らの境遇のほうが、いくぶんマシに思えるほどだよ」
(C)雨男 2022/01/12 ALL RIGHTS RESERVED




