さらばユタ
幸太郎は舌を巻いた。
嘘を本物のように見せるには、事実の中に嘘を混ぜればいい。
そうすれば嘘を見破ることは格段に難しくなる。
そして、もうひとつ。相手の望む嘘を混ぜればいい。
相手の願望が嘘を守る。
ギブルスは見事にやってのけた。それだけではない。
このアルという若者を救ったのだ。
おそらくギブルスは彼の話を聞いて、
機会があれば助けてやりたいと考えていたのだろう。
幸太郎たちの脱出に、アルの救済、これをひとつの機会に組み合わせて、
両方ともきれいに助けてみせたのだ。
しかも、今使った嘘は誰にもバレないだろう。
この話を内緒にしておくのは『お互いに利益がある』から。
(この人には、かなわないな・・・)
幸太郎はそう思った。
「さあ、先輩たちが起きてくる前に馬車を通しましょう」
アルは涙をふいて、笑顔で言った。幸太郎は通行許可証をアルに渡す。
「昨日この町に戻ったばかりなんだが、もう出発だよ。
2,3日ゆっくりする予定だったんだけどな。
ギブルスの旦那は人使いが荒いぜ・・・」
幸太郎は苦笑して言った。
「なんじゃ? 文句があるなら金を返しておくれ」
「うへえ、ヤブヘビだ。それじゃ、おいらは行くとしよう。
おっと、そうだ、悪いがあんたの話は聞かせてもらったよ。
これ、結婚の祝い金だ。もう当分ここには戻らないからな。
これで彼女と食事にでもいきなよ」
幸太郎は金貨2枚をアルに渡した。本当はもっとあげたかったが、
これ以上あげると不自然だ。
「あ、ありがとう、ございます・・・」
「泣くなよ。男前が台無しだ。じゃあな!
幸せが両手を広げてお前さんたちを待ってるぜ?!」
幸太郎は馬車を前に進ませた。
顔は笑っているが、内心はドキドキだ。
「トホトホ・トー! トホトホ・トー!」
馬車は門をくぐった。・・・さらばユタ。
(C)雨男 2022/01/09 ALL RIGHTS RESERVED




