救いの神?
「まあ、少々不憫にも思うから、希望する者はカーレの
わしの店で働いてもらおう。そして、エルフや狸人族は
アルカ大森林で解放することにした。代金は頂いたからの」
「解放しちゃうんですか?」
「ああ、実はわしは奴隷制度が好きではないのじゃ・・・。
奴隷を使役している方は気分がよかろうが、
奴隷に落ちた人々を思うとな・・・」
ここでギブルスは何かを思い出したようにアルの顔を見た。
「そういえば・・・。お前さん、確か恋人が・・・」
「な、なぜそれを? ・・・確かに、俺の幼馴染の恋人は・・・
今年の秋の税が払えなければ・・・。奴隷に落ちます・・・」
「うむ・・・。実は金貸しのムジンが話していたのを、
偶然立ち聞きしていたのじゃ」
これも嘘。何しろムジンが話していた相手こそギブルスなのだから。
「おととしの流行り病で、彼女の両親が倒れて・・・。
それ以来、借金は増える一方・・・。
正直、もう彼女に払えるあてはありません・・・」
「お前さんも警備隊に入ったとはいえ、まだ貯金はあるまい。
この袋の金貨は20枚。・・・彼女の借金は?」
ギブルスは知ってて聞いている。
「すでに、利息を含めて金貨28枚まで増えました・・・。
俺には、その袋の金貨がどうしても必要なんです・・・。
あとは俺がなんとか借金をすれば・・・」
ギブルスは無言でポケットから金貨を取り出して、袋に継ぎ足し始めた。
「これで・・・金貨は30枚じゃ。ほれ、持っていけ」
「ギブルスさん・・・」
「あのお方から、褒美を増やしてはならない、とは命令されておらんからの。
・・・彼女を幸せにしてやるんじゃぞ?」
「あ、あ・・・ありがとうございます・・・」
「泣くでない。これからは幸せな人生が待っておるんじゃからのう・・・。
ムジンに金の出所を聞かれたら
『変な模様の石をギブルスに見せたら、高く買ってくれた』
とでも言っておけばええ。それで奴も疑いはせん」
アルはぼろぼろ泣きながら、
ずっと『ありがとうございます』を繰り返している。
「ふっふ。短時間のうちに、なにやら他人に話せない内容が
たくさん出来たのう。人生はこれだから面白い。
あのネクロマンサーは・・・。
お前さんにとって幸運をもたらす、救いの神じゃったのかもなあ・・・」
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