真相(うっそぴょーん) 2
「ネクロマンサーが辺境伯の屋敷から庭へ出た時、
ちょうど、あのお方が門へ到着したんじゃ。
門の内側はおびただしい死体の山。あのお方は瞬時に状況を理解なされた。
実は、あのお方とネクロマンサーは面識があるのじゃよ。
お互いにその力量は知っておる。
本気で戦えば、どちらかは必ず死ぬ。そして勝ったほうも
再起不能になるじゃろう。
あのお方とネクロマンサーは数秒にらみ合った。
そして、ネクロマンサーは『失敗だ』と言い、
悠々とあのお方の横を歩いて門を出て行ったそうじゃ。
ネクロマンサーは、すれ違う時に『子供たちはお前に預ける。
親の所へ帰してやってくれ』と言って、そのまま夜の闇へと消えた・・・」
「それがネクロマンサーが言った『失敗だ』の真相なんですね?!
・・・そんなことが・・・。それで防壁を越えて逃げた黒フードは2人で、
子供たちはいなかったのですか・・・。
あ! ではこの馬車の中には?!」
「そうじゃ。わしがあのお方から
『子供たちを村へ帰してやってほしい』と依頼を受けて、
一晩預かっていたんじゃ。あのお方は表立って行動できんからのう。
子供たちは、この馬車の中におる」
「見つからないはずですね・・・。
まさかギブルスさんに預けられていたとは」
「わしが『奇妙なものが好き』なのは知っておるじゃろう?
それでわしが少々奇妙な行動をしても誰も不思議に思わん。
それに目を付けたあのお方は何年も前から、
時々わしに様々な依頼を出すようになっておったんじゃ。
ここまで重大な依頼は初めてじゃがの」
「『黒い噂』のまさに動かぬ証拠・・・。
これは・・・。確かに公になれば・・・」
「うむ・・・。王国のメンツは丸つぶれじゃ。
例えばジャンバが攻め込んできても、
王国の諸侯はむしろ、あっちへ寝返るかもしれん・・・。
恥ずかしくてバルドの味方はできん・・・とな」
「最悪、戦争の火種になるかもしれないんですね・・・」
「じゃが、その門・・・わずか30メートルほど先の
あの門さえ馬車がくぐれば、王国としては『知らぬ、存ぜぬ』を
一応通すことができるのじゃ。
このまま、子供たちがユタの中で見つかりさえしなければのう。
例え何を言われても、『捜索したが子供たちは見つからなかった。
噂には根拠がない。しょせん噂の域をでない』と言い返せるのじゃよ。
言い訳としては苦しいが、証拠はないんじゃ。証拠さえなければ、
『結局子供たちは見つからなかった』という話が広まる。
時がたてば、噂はうやむやになってゆくじゃろう。
王国の体面はぎりぎり、かろうじて保てる」
「なるほど・・・。これは誰にも見つかるわけにはいかないですね・・・」
(C)雨男 2022/01/08 ALL RIGHTS RESERVED




