術中
アルは慌ててギブルスの前に回り込んだ。
「まっ、待ってくださいよ! 俺は話を聞かないなんて言ってないですよ!」
「ん?・・・そうじゃったかの? なんかお前さんは
気乗りがしないようじゃったからの・・・。
ではお前さんが馬車を通す手続きをするのか?」
ギブルスはあえて『馬車を通す手続き』と言った。
『馬車が通過する』ことは決定事項という誘導だ。
「え、ええ。馬車1台通すのに、先輩たちをわざわざ
起こす必要はないですよ」
アルも『馬車1台通すのに』と言った。完全に飲まれた。
「ふむ・・・。ではお前さんに頼もうかの。
ではもう一つ聞くが、この馬車には昨日の事件の真相がある。
お前さんはそれを誰にも他言しないと約束できるか?」
「昨日の事件の真相?! ほ、本当ですか?」
「うむ、この事件の真相は、どんなに調べてもわからんよ。
この事件の真相は、この町では、あのお方、わし、そしてお前さんの
3人以外には永遠に闇の中じゃろう・・・」
「昨日の事件の真相・・・。教えてください。誰にも他言いたしません!」
「覚悟はあるか? 誰かに話せば、お前さんはあのお方に消されるぞ?
真相はそれほど国家の威信にかかわる重大な出来事じゃ」
「国家の・・・?」
「そうじゃ。この馬車を通過させることは
バルド王国の名誉を守ることにつながる。
本来なら国として栄誉を与えねばならないが、
表立って授けることができぬ。
それでせめて褒美をとらせようと、あのお方が
この金貨の袋を下さったのじゃよ」
ギブルスは再び金貨の入った袋を見せた。
「アル坊や・・・、いや、アルよ。ここから先は大人の世界じゃ。
覚悟はあるか?」
「はい!」
アルは力強く答えた。完全にギブルスの術中に落ちた。
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