東門
幸太郎は門をくぐるための芝居を2,3通り用意していたが、
ギブルスが『わしに任せろ』と買って出てくれた。
なにやらいいネタがあるらしい。
「さあ、みなさん、馬車に乗って下さい。いよいよこの町を脱出します。
町から離れるまでが脱出ですよ! 町を出るまでしょんぼりの
演技を忘れないで下さいね」
全員が馬車に乗り込む。馬車はギブルスの屋敷の門をくぐり、
東門を目指す。コナへ向かう北門や、カーレへ向かう南門に比べて、
東門は農業や狩猟の人しか基本的に用が無い門だ。
ちなみに西は海からの風を防ぐ目的で門が無い。
幸太郎は馬車の御者の席に座っている。幸太郎は馬車を操る経験など無い。
門まではギブルスが操り、幸太郎は門を出るまで直進させるだけ。
その後はモコと交代する。ロバは一番大人しく、
言うことを聞くものを選んでくれたようだ。
ギブルスがすいすいと東門まで馬車を進めた。
・・・簡単そうに見えるが・・・。
東門に到着すると、ギブルスは馬車を止めて番兵のほうへ向かった。
いよいよ最後の段階だ。開演。
東門は幸太郎たちの馬車以外に誰もいなかった。
これはギブルスの計算だ。農業の人が利用する東門は朝と、
夕方以外には、ほとんど人の出入りがない。
一番『ゆるい』のだという。
そして、今日の番兵にギブルスのターゲットがいた。
『アル』という今年16歳になって成人した若者だ。
ギブルスは彼について、いい情報をつかんでいるらしい。
しかし・・・。そのアルという若者以外、番兵が見当たらない。
1人だけ? とにかくあとはギブルスに任せることにした。
「いよーう。アル坊。今日はお前さんだけか? ひっひ」
「そんなわけないでしょう、ギブルスさん・・・。
先輩たち2人はあっちの小屋で寝てますよ」
「そうか、まあ、昨日はお前さんたちも駆り出されて
徹夜だったというからの。
昼飯も食ったら眠いのも当然か。くっくっく」
「それだけじゃないんです。上から通達が出て
『今夜に備えて各自休憩を取れ』ってことで、
交代で寝ることになったんですよ」
「ほう、そうか。お前さんたちも苦労するのう。
・・・ところで、お前さんに一つ、選択肢をやろう。
ひっひ。お前さんの選択次第では・・・この袋は、お前さん1人のものじゃよ」
ギブルスは金貨の入った袋を取り出した。
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