わしの負けじゃな
ギブルスのこんな顔は今まで見たことがない。
ギブルスは3秒ほども固まったまま動かなかった。
いや、動けなかったのだろう。
この指輪は、昨夜エルロー辺境伯の金庫室で吸い込んだ宝物のひとつだった。
この指輪は豪華な造りではない。むしろ質素と言っていい。
銀をつかった台座にバラの紋章が入っているだけ。宝石も無い。
だが、この指輪はエルロー辺境伯の金庫室の机の上で丁寧に飾られていた。
もっと豪華な指輪もある中で、破格の扱いといっていいほどだった。
幸太郎は、その指輪を吸い込む前に『鑑定』してみた。
『バラの証の指輪 : ローゼンラント王国の王妃が代々身に着けていた指輪』
(この指輪は・・・)
幸太郎はこの指輪の真の所有者に心当たりがあった。
この指輪はその人以外が持っていていいものではない。
(まずは、ギブルスさんに渡すべきだろう・・・)
幸太郎はとりあえず預かることにした。
「ギブルスさん。その指輪が気に入りましたか?
ではこれらの美術品や金貨などとセットで、
馬車などの代金としてお渡しします」
幸太郎はニコッとほほ笑んだ。
ギブルスはさらに指輪を眺めていたが、
少し溜息をつくと幸太郎に顔を向けた。
「ふっふ、どうやらわしの負けじゃな。
では、これらはありがたくもらっておこうかの。
馬車などの代金としては、ちと多すぎるが・・・
他に選択肢は無いようじゃ」
ギブルスは丁寧にハンカチに指輪を包むとポケットに入れた。
代金の精算は終わった。いよいよ堂々と門をくぐると時がきた。
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