精算
昼食も終わり、いよいよ町から脱出する時が来た。
しかし、幸太郎はその前にひとつやることが残っている。
代金の精算だ。
ギブルスに『つけ』で馬車やロバ2頭、食事、物資に隠れ家まで
提供してもらった。さすがにかなりお金がかかっているのではないか?
出発する前に代金は支払っておきたい。
幸太郎がギブルスに精算を切り出すと、意外な答えが返ってきた。
「費用か? まあ、今回はタダでいいぞ。色々面白かったしの。ひっひ。
一応、町の住人としてエルロー辺境伯を断罪できたのもスカッとしたわい」
確かにジャンジャックとグレゴリオが
『もしかしたら、タダになるかも』とは言っていたが、
本当にタダにしてくれるとは・・・。
しかし、幸太郎としてもそれでは心苦しい。
ギブルスがいなかったら、どれほど苦労していたかわからない。
きっと、もっと時間がかかり、強硬手段が増えて、
より多くの人が死んだだろう。
なんとか代金を受け取ってもらわなくては。
だが、幸太郎は偶然だがギブルスに代金を受け取らせる手段を
昨日入手していた。
「そうですか、タダにしていただけるとは・・・。
しかし、私の故郷にはこんな言葉があります。
『商売人は損して得とれ』 つまり、相手に儲けてもらい、
長い付き合いをしてもらう中で、自分は徐々に利益を出すべきだ・・・
という意味です。そこで、これらを受け取っていただきたいのです」
幸太郎は昨日の寝室に使った部屋に、『マジックボックス』から
取り出したものを並べ始めた。
『百』と書かれた金貨の袋を10袋。絵画や彫刻などの美術品。
宝石が入った箱・・・。ギブルスも少し興味をひかれたようだ。
「ほう・・・。この絵は E・ダーテンの『花とブラザー』じゃな。
サインも本物、間違いない。金貨300枚はするじゃろう。
こっちも E・ダーテンの彫刻『スクワットをする人』か。
E・ダーテンは彫刻家としても一流じゃったが、
何故か生涯で10体しか彫刻を残さなかった。これは8体目。
金貨500枚はするのう。この装飾剣は・・・ミスリル。
飾りの金、銀、宝石、全て上質じゃの。この剣なら
金貨600枚は下るまい・・・。ふむ、この箱の中の宝石も・・・」
しかし、案の定ギブルスは、これらを断ろうとした。予想通り。
そこで幸太郎は最後に1つの指輪を取り出してテーブルに置いた。
ギブルスの顔色が変わった。
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