しりもち
「『答え無しも、また答えなり』ってことさ。さっき言ったように、
辺境伯は決定的な証拠は全て握りつぶした。と、いうことは、だ。
エルローの馬鹿も恐れていることはあるって意味だ。
王国の世間体とか、貴族としての名誉、とかかな?
まあ、ともかく魔王のごとく怖いもの無しで、
逆らう奴は皆殺しってわけにはいかない。
王国の中央政府が乗り出してくるのも困るんだろう。
つまり、噂のまんまってことは、同時にエルロー辺境伯の
弱点を教えることにもつながるわけだよ。
『辺境伯はこのことを大っぴらにできない』『協力者は限られてる』
『一般市民は辺境伯が殺されても自業自得と思う』
『不名誉なことだから警備隊も判断に迷う』・・・。
イネスさんはこのことを読み取ってくれる人が現れるのを待っていたんだ」
「では、ご主人様の計画は・・・」
「そうだよ? イネスさんの計画を読んだ上で、
自分が実行可能なように細かい部分を構築しただけ。
俺はイネスさんの計画に乗っかったのさ。
でも、昨日はイネスさんが協力してくれて助かったな。
・・・足払いかけなくて良かったよ。あははは」
「そういえば、最初は私が『ラピッド・スピード』を使って、
メイド全員に足払いをして、しりもちをつかせる計画でしたっけ」
「誰がこっちの味方かわからなかったからね・・・。
まさかメイド全員が『裏切者』とは思わなかった。
なるほど、これでは辺境伯は誰が『裏切者』かは
特定できなかっただろうな。
可能性としてはもちろん疑っていただろうけど、
全員がお互いをかばったら、わかりっこないよ」
「それにしても、イネスさんはどうやって、
そんな計画と噂を作ったのでしょう?」
「まあ・・・。ギブルスさんだろうな。昨日の作戦のスタート地点。
明らかに辺境伯の屋敷を襲撃するための目的が無いと、
あんな場所を見つけられないさ。
噂をうまく流したのはギブルスさんだろう。
イネスさんがやると見つかる可能性が高い。
辺境伯から立ち位置が近すぎるからな。なぜギブルスさんが
イネスさんに協力していたのかは・・・聞くのは野暮ってもんだ。
ただ、あの人だから、半分くらいは『面白そうだから』が
占めてると思うよ」
(C)雨男 2021/12/28 ALL RIGHTS RESERVED




