探したくない
だから、『小狼族』にたどり着いた警備兵は全員同じことを考えた。
(ネクロマンサーをなんとかできない限り、小狼族に手を出すべきではない)
先ほどジャンジャックとグレゴリオと話していた中年の警備兵も、
すでに似たような感覚にとらわれていた。逃亡した奴隷を探す方に
熱心な警備兵に対して『嘆かわしい』とは言ったが、
その後『ネクロマンサーの方を探すべきだ』という言葉は
最後まで出なかった。
『仮にネクロマンサーを見つけても、返り討ちにあうだけではないのか?
そうなった場合、俺たちは辺境伯の警護と同じ目にあうのではないか?
敵対さえしなければ、ネクロマンサーはもう誰も殺さない・・・』
警備隊の兵士は誰一人口にはしないが、このような考えが蔓延していた。
首都からくる調査官に、報告書を提出しなくてはならないため、
真相の究明はしなくてはならない。
しかし、すでに朝の段階でユタの町全体を
『辺境伯は自業自得じゃないか』
という雰囲気が覆いつつあった。それがさらに警備隊の動きを鈍らせ、
歯切れを悪くさせていった。
そして、ユタの市民にも辺境伯に味方する意識が
どんどん希薄になりつつある。
人間の世界は『思考が先で、現実はあとからそれをなぞるだけ』
トイレに行きたいと考えたから、人はトイレに行く。
気が付いたらいつの間にか、トイレの便器の前に立っていた、
などということは起こりえないのだ。
『探したくない』ネクロマンサーなど永久に見つからないだろう。
幸太郎はギブルスの屋敷の台所を借りて、なにやら作業をしながら、
『なぜ、追手はかかるのに、のんびり脱出できるのか』
をモコに説明していた。
「そ、そうなんですか・・・。仕事として追手はかけるけど・・・
結局、個人としては見つけたくはない・・・。人の世界は心が先で、
現実はそれを後からなぞるだけ・・・。
ご主人様はどうしてこんな力を・・・?」
「別に俺は特別じゃないよ。普通の人。
もし、俺の世界の人間がここにいたら、
全員同じように考えて、同じような行動をとっただろうさ。
俺より、もっと上手くやるやつもいるだろう。
俺は頭が悪いからな。あははは。
まあ、やり方はテロリストみたいで嫌だけど、
子供たちを拷問して殺すのが趣味のクソヤローと
それに味方するような奴には遠慮はしない。何度も言うが、
散々好き勝手やってきて、相手が反撃してきたら
『ひどいじゃないか』なんて虫のいい話は神が許しても、俺は許さん」
(C)雨男 2021/12/27 ALL RIGHTS RESERVED




