犯人は小狼族
警備隊は『わかっているのに、あえて無視』をしていることがあった。
『犯人は仮面の人族と獣人の女の子』。そう、実行犯は獣人なのだ。
子供たちを奪還に来たという情報と照らし合わせてみれば、
この近辺の獣人の村で、人狩りに襲われたところだということは
容易に想像がつく。
そして、何より『小狼族の子供たちが奴隷商人の商館に運び込まれた』
ということを知っている警備兵は少数だがいるのだ。
門の番兵も小狼族が現れた場合の報告を辺境伯から求められていた。
当然上層部にもこのことを全部知っている者はいる。
ブロトのメイドたちも複数の警備兵が知っていることを
証言しているはずだ。
『犯人のうち1人は小狼族』
当然、この正解にたどり着ている警備兵はかなりいた。
だが。
決して口にしなかった。
『敵対するなら、次はオマエだ』
この文章は、まるで答えにたどり着いた者への警告に思えたからだ。
プレートの文章は『まだお前たちを敵視していない』という
暗示になっている。あくまでも、子供たちの奪還と、
村を襲ったことへの報復だと告げていた。
そして、それを証明する事実があった。
『ファルネーゼが指一本触れられていない』
なぜ辺境伯の奥方が生きている・・・いや、
全く怪我一つさえ無いのか? さらに、辺境伯の屋敷のメイドも
全員無傷だ。ブロトの商館のメイドまで全員無傷。
このことは明快な答えを指し示し、警備兵たちはすでに理解していた。
『敵対しなかったからだ』
(ファルネーゼ様は、辺境伯が殺されたのは自業自得と思っていたのだろう。
ネクロマンサーはそれを聞き入れてくれたのだ)
正解にたどり着いた警備兵は全員そう思った。
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