あざらしの枕
翌日。幸太郎は体の左側がほかほかと温かい感触に気が付いた。
ふと、目を開けるとチワがぴったりくっついて寝ていた。かわいい。
部屋を見ると、すでに幸太郎とチワ以外、誰もいなかった。
そういえば、この世界の人々は日の出と共に起きてくるのが普通と
モコに聞いていた。時計塔を見ると7時50分。
よく寝たものだ。やっぱり疲れていたのだろう。
チワも目を覚ましたらしい。
しかし、幸太郎の首に顔を押し付けて離れようとしない。
鼻息が少しくすぐったい。
「チワちゃんは、もう少し寝てていいよ」
幸太郎は体を起こした。チワはひしりとくっついて一緒に起きてきた。
「じゃあ、朝ごはんを一緒に食べようか?」 チワはこくりとうなずく。
隣の部屋からは人の声がする。女性陣のようだ。
しかし、何か食事をしているような音ではない。
幸太郎はドアを開けてみた。
部屋の中には、糸と針、ハサミなどの裁縫セット。生地。綿。
それらを使って女性陣が何かを作っている。
いや、テーブルの中央にすでに完成品があった。
「これは・・・。アザラシゴースト・・・の、ぬいぐるみ???」
手前にいたエルフの女性が幸太郎に答えた。
「はい。ギブルスさんが、暇つぶしに作ってみるか?
と聞いてこられたので。どうせ、お昼まですることはありませんから、
みんなで試作品を作っています」
完成品は2つ。あざらしのぬいぐるみと、あざらし枕だった。
ギブルスの書いた絵を参考に、狸人族の姉妹が
テキパキと試作品を作ったという。すごい腕前だ。
それにしても・・・昨日の今日だというのに、
もうアザラシの試作品とは・・・。
「なんて、ちゃっかりした爺さんだ・・・」 幸太郎は戦慄した。
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