トラウマ
「モコ。実はちょっと心配なことがある」
幸太郎はギブルスたちとテーブルを囲んで雑談に入っていた。
ギブルスとガーラ、タマンは残っているパンやソーセージを
もっしゃもっしゃ食べている。
「なんでしょう? ご主人様」
「実は、子供たちは大きな怪我を負っているんだ。
体の怪我は全て治したが、まだ心の方に深い傷が残っている」
「心の怪我・・・?」
「ああ。さっきチワちゃんが俺に飛びついてきただろう?
そして俺の膝の上で眠った。これは『退行現象』と呼ばれる
症状じゃないかと思う。心の傷をかばって一時的に
幼児のような行動をしてしまう症状だったはずだ」
「・・・幼児に戻る、ということですか?」
「俺の故郷でも、大きな自然災害にあった子供には、
この症状が見られたと聞く。恐ろしい目にあった子供は、
かなりの頻度で母親にしがみついたり、突然泣き出したり、
おねしょをする子供もいたそうだ。俺は医者じゃないから
詳しいことは知らない。
だが、あれほどの恐ろしい目にあったんだ。
この症状が現れている可能性は高いと思う」
「治す方法はないのですか?」
「『陽光の癒し』でも、心の傷までは治らないようだ。
時が傷を癒すのを待つしかないだろう。
俺の聞いた話では治るのに10年以上かかった子供もいるという。
だから、モコには村の人たちに説明を頼みたい。
事情を知らないと厳しくあたる親もいるかもしれない。
もう一つ、おそらく、子供たちは甘いものが
食べられなくなっているだろう。特に飴なんかは」
「あ・・・。人狩りが子供たちを騙すのに使ったお菓子ですね・・・」
「そうだ。子供たちにとっては恐怖の一部になっているだろう。
村の人たちに説明を頼むよ。部外者の俺じゃ信用されないからな」
「了解です。・・・ご主人様、本当にありがとうございました・・・。
子供たちを助けて下さって・・・」
「いいさ。礼には及ばない。自分がやりたくてやったことだ。
辺境伯や警護を殺した罪は俺が背負う。
モコには背負わせない。
・・・あ。そうだ、カルタスたちにお礼を言っておかなきゃな」
(C)雨男 2021/12/22 ALL RIGHTS RESERVED




