歯がキラッ
かわいそうな騎馬隊の隊長は必死に考える。
(辺境伯の屋敷を襲撃したのは黒フードの奴らで、こいつらは陽動・・・?)
いきなり正解にたどりついた。
(いや、仮にこいつらを雇ったなら屋敷の襲撃に参加させない手はない!
陽動なら、誰でもいいんだからな。戦力的にこいつらを雇って
襲撃から外すなど考えられん・・・)
いきなり正解を放棄した。
(落ち着け・・・。まずは順を追って考えよう・・・。
ジャンジャックたちが主犯として屋敷の襲撃に参加する。
そして辺境伯を殺して、黒フードを被って逃走。
ネクロマンサーが辺境伯の死体を操って騒ぎを起こす間に、
防壁を乗り越えて橋まで逃げてくる。
警備兵が来るまでに魚を釣って・・・)
「無茶すぎるわあああああ!」
「うおっ、いったいどうしたんだよ隊長さんよ・・・」
「さっきから表情が目まぐるしく変わっているが、
何か辛いことでもあったのか・・・?」
グレゴリオは内心ニヤニヤしていた。
(フフフ・・・悩め悩め、それが青春ってものだよ・・・)
幸太郎のオーダーは『陽動』だけだった。
とにかく『誰か外へ逃げたぞ』という事実だけあれば良かった。
だから当初、幸太郎はゾンビかスケルトンに
やらせようと考えていたのだ。
アレンジを加えたのはグレゴリオだった。
あえて黒フードと接触したという設定を入れれば、
警備兵は必ずジャンジャックとグレゴリオに注目する。
屋敷の警備兵をなぎ倒す予定ならば、数少ない
『B級』冒険者の2人は戦力としてうってつけ。
『犯人に雇われたのでは?』と考えさせたら勝ちである。
(フフフ。『B級』を雇ったら絶対襲撃に参加させているはず
という考えが消えないんだろう? 『襲撃がメインで陽動はオマケ』
・・・その袋小路に入り込んだらもう出てこれないよ・・・?)
グレゴリオは優しい顔で騎馬隊の隊長に水を一杯コップに注いで渡した。
「さあ・・・少し、落ち着いて・・・」 ここで歯がキラッ
(C)雨男 2021/12/19 ALL RIGHTS RESERVED




