辺境伯の死体が
「うはっ。これはすげえな。町は大混乱だな・・・。ん?」
ジャンジャックは遠くに『裸の男』が歩いているのに気が付いた。
それは『死体操作』をかけられたエルロー辺境伯だった。
よたよたと歩きながら大通りに出てくる。
それに気が付いた住民が絶叫した。
顔はあざだらけの上、死んでいるのは明白だったからだ。
エルロー辺境伯は人を見るとへらへら笑いながらお辞儀した。
そして、自分の胸に刺さっているナイフを抜くと、後ろ向きになった。
エルロー辺境伯はゲラゲラ笑いながら、
自分の肛門へナイフを3回突き刺すと、
再びナイフを自分の胸に刺した。そして再びよたよたと歩き出す。
それを見た住民は、ある者は絶叫し、ある者は青ざめ、
またある者は失神した。
「うわー・・・。えげつねぇな・・・。幸太郎はよっぽど怒ってるんだな。
まあ、自業自得か。確かに幸太郎の言う通り、
反撃されて文句を言うのはお門違いってもんだな」
防壁にいる番兵もエルロー辺境伯の死体に気が付いたらしい。
みな大通りを見て青ざめている。
本当は上司に報告へ行かなきゃならないはずだが、
凍り付いたように動かない。
その結果、だれも防壁に上ったジャンジャックに気が付かないという有様。
(うーん。これでは陽動にならない。しゃーねえ・・・)
ジャンジャックは、そっと防壁の階段へ飛び降りると、
駆け上がりざまに番兵を蹴り飛ばした。
そして、そのままロープを伝って防壁の外へ降りた。
やっと防壁の上も騒然とし始めた。当然、エルロー辺境伯を
殺害した犯人と見ているのだろう。怒鳴り声が聞こえる。
ジャンジャックは茂みの中のカカシを自分の前に掲げて、
もう一人いるように見せかけて走り出した。
茂みから茂み、木立から木立と、足元が見えないように低く走る。
防壁の門の前の旅行者や行商人も立ち上がって
指をさしているのが見えた。狙い通り。
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