会うこともないだろう
「で、ではエリックは主のブロトとエルロー辺境伯を、
わざと見殺しにしたってことなんですか・・・?」
「その通りだね。まあ残酷ではあるが、冷静な判断だよ。
例えばエルロー辺境伯に警告するにしても、何て言えばいいんだ?
『小僧と獣人の娘が今夜襲うから逃げて下さい』って言えばいいのか?
エルロー辺境伯は避難するかな? しないよな。
そして、『なぜ襲撃を知っているんだ?』なんて問い詰められたら
説明できるだけの根拠が無い。
おまけに、万が一エルロー辺境伯が勝った場合、襲撃を知っていながら、
どうして事前に阻止できなかったんだって責められるだろう。
かといって、自分でエルロー辺境伯を護衛したって意味は無い。
大貴族の警護を全て『倒すか、かいくぐる算段がある』って仮定するなら、
当然何か大戦力が用意してあるか、自分の知らない魔法なり、
スキルが使用されるってことだ。
警護に参加しても、単に巻き込まれて死んで終わりだな」
「・・・結局、情報が足りないから手の打ちようがない。
だからせめて自分だけでも生き残ろうってことですか・・・?」
「それしかないだろう? エルロー辺境伯を説得することは不可能だ。
ブロトはモコを奪って奴隷にすることしか考えていない。
俺の罠にはまって、すでに勝った気分でいたからな。だから、
エリックはこの2人の死亡が確定したとの前提で、
次善の策をとっただけだよ。若いのに修羅場はくぐっているな。
いい判断だ。
もし、エルロー辺境伯とブロトが生き残ったら、それはそれで損はない。
侮れん相手だが、まあ、もう会うこともないだろう」
「怖い相手ですね・・・。でも、確かにもう接点はできないと思います」
「ああ。では仕上げをしたらギブルスさんの店へ戻ろうか」
幸太郎は1人で二階へ上がる。メイドたちにお暇を告げるためだ。
(C)雨男 2021/12/17 ALL RIGHTS RESERVED




