紳士の条件
「私は紳士などではございません。ただの田舎者です。
・・・本当の『紳士』とは、
そちらのイネス様のような方のことを言うのです。
ファルネーゼ様は『紳士の条件』というものをご存知でしょうか?」
ファルネーゼは首をふった。
「私のいた世界では、次のように言われております。
※ 『挙措において簡素』
『言語において細心』
『熱狂において慎重』
『絶望において堅忍』
これが『紳士の条件』です。
イネス様は辛い絶望の日々の中でも、決して心は折れなかった。
いつか、必ず風が吹くと耐え続けたのです。
そう、暗い闇の中でも『いつか、必ず夜は明ける』と信じ続けたのですよ。
並大抵の人間にできることではございません。真に尊敬できるご婦人です」
「そんな・・・私は・・・何も・・・」
イネスの目から涙がこぼれた。
「イネスは・・・今の言葉で報われたと思います。
ネクロマンサー様は不思議なお方ですね・・・。貴族よりも貴族らしく、
そして、逆に全く貴族らしくない・・・。
この世界にあなたのような方がいるとは知りませんでした」
「私のことはお忘れ下さい。ファルネーゼ様。
私はただの平凡な田舎者です」
「また・・・お会いできますか?」
「いえ、それはかないません。この別れは死と同じです。
二度とお会いすることはないでしょう。では、さようなら・・・。
あなた方に太陽神アステラ様のご加護がありますように・・・」
幸太郎は深く頭を下げてからドアを閉めた。モコがうなずく。
そう、まだ幸太郎たちには終わっていないのだ。
『ブロトをぶちのめす』
※ オーギュスト・ヴィリエ・ド・リラダン著 『サンチマンタリスム』
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