お前はただの馬鹿だ
「嘘をつくな。お前は『身代わりの指輪』以外に、まだ打つ手があるのだろう。
ここから脱出する手段がな。あいにく、その手の嘘は俺には通じない」
幸太郎には確信があった。エルロー辺境伯の目がまだ死んでない。
『まだ、こいつには打つ手がある』
幸太郎はブラック企業で営業や集金もやらされていたせいで、
相手が本当に追い詰められているのかどうか、わかるようになっていた。
本当に打つ手のなくなった相手は、独特の色が目に宿る。
「くっ・・・『離脱』!!!」
だが、幸太郎には読めていた。幸太郎のほうが一手早い。
「『破魔の陽光』・・・!」
エルロー辺境伯の指輪の1つが少しだけ光った。
しかし、『破魔の陽光』の光の中でかき消された。
「何!? そんな?! 何故だ、何故『離脱』の指輪が発動しないのだ?
『離脱』!・・・『離脱』!・・・くそっ! こんな馬鹿な!!
何故わしの言うことが聞けんのだ!? 『離脱』!・・・う、ううっ?!」
「ふーん。『破魔の陽光』は魔法を吹き飛ばすが、
アイテムを破壊するわけじゃないんだな・・・。
と、いうことは、しばらくすればアイテムは
使用可能に復帰するんだろう・・・。
よかったな? エルロー辺境伯? その指輪はまた使えるってさ」
「あ、ああ、あああ・・・そんな、そんな、馬鹿なことが・・・」
「その目。今度は本当に打つ手が無くなったみたいだな。
お前は余裕ぶっこいて俺たちの情報を探ろうとせずに、
ドアが破られた時点でしっぽを巻いて逃げるべきだったんだよ。
お前の敗因は『自分のほうが上位だ』という思い込みだ。
どうせ、後で俺たちを捕らえて拷問しようとか考えていたんだろ?
お前は何を根拠に『自分が上位』などと思っていたんだ?
ん? 何もないだろ?
まさかお前の地位が俺に通用するとでも思っていたのか?
それとも、お前の資産に俺がひれ伏すとでも思ったのか?
俺の欲望を叶えると言えば、俺がしっぽを振るとでも?
完全に単なるお前の独りよがりの思い込みだよ。
わかったか? お前はただの馬鹿だ」
「た、たっ、たた、助けてくれ・・・。
なんでも、なんでもする、許してくれ・・・。本当だ、本当だ、
約束する、約束する、約束する・・・絶対に約束は守る!
信じてくれ、わしの名にかけて誓う! 噓じゃない・・・」
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