幸太郎の要求
「は、ははは。お前はこの犬ころと違って人の言葉が分かるようだな。
おい、こいつに降りるように言え」
「それは交渉の結果次第だな。エルロー辺境伯?
お前は何が望みで、何を取引に使うのだ?」
「わ、わしの命を保証しろ。そうすれば、何でも望みのものを与えよう。
金でも、美女でも、地位でも、なんでもだ。
そうだ、お前は今、その犬の傷を治したな?
わしに仕えよ、そうすれば、一匹の犬でも何度でも楽しめる。
見返りは思いのままだぞ?
様々な種族の美女に囲まれてみたいと思わんか?」
「そいつは魅力的だな」
「ご主人様!」
「モコ、黙ってろ。命令だ」
「よし、お前は話がわかるようで安心したぞ。さあ、わしを開放しろ」
「だが、あいにく俺の要求は美女じゃないんだ」
「では、なんだ? 金か? 地位も欲しいか?」
「お前が今まで殺した子供たちを生き返らせろ。
全てだ。今、ここで、殺した子供たちを生き返らせろ。
そして、その子供たちに這いつくばって謝れ。
俺の要求はそれだけだ」
モコは背筋が凍った。幸太郎の顔は、モコが今までの人生で
見たこともないような冷たい顔だった。
水脈の枯れた、深い、深い、真っ暗な井戸を覗き込んでいるような、
底知れぬ恐怖をモコは感じた。
(ご主人様は・・・ほ、本気で怒っている・・・。
炎ではなく・・・まるで暗い、地の底の闇のような・・・)
「そ、そんなことは不可能だ。何か他のものにしろ。
頼む、今回のことを機に反省する。
もう、こんなことはやめる。本当だ。もう絶対にしない。
誓うよ。約束する。子供たちの墓も作って弔う。
・・・助けてくれ、もう観念したよ・・・。
降参だ・・・必ず償いはする・・・。許してほしい・・・」
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