傷ひとつ残さない
1人だけ涙を流していない女の子・・・。それは血まみれの顔のせいだった。
全身に数百本の針を刺され、数十本の釘が体のあちこちを貫通していた。
耳は両方なかった。どちらも切り口が違う。
おそらく片方はハサミで切り取られ、
もう一方は切れ味の悪い刃物でノコギリのように切り取られたのだろう。
そして、両目に釘が刺さっていた。
「てめえっ!!!」
幸太郎は頭に血が上った。一瞬我を忘れそうになった。
だが、次の瞬間には自分の役割を思い出した。
隣にいたモコが、どす黒い、煮えたぎるマグマのような怒りを
発していたからだ。
「『密室』・・・。モコ!!」
モコは何かに弾かれたように飛び出した。
そのままエルロー辺境伯を蹴り飛ばす。
エルロー辺境伯は床と平行に吹っ飛んで壁に叩きつけられた。
そしてモコはエルロー辺境伯が顔を上げるより早く、辺境伯の腕をつかむと
思い切り振り回して部屋の中央にある手術台みたいな机に叩きつけた。
「ぐはっ!」
モコはうめき声をあげるエルロー辺境伯の腹に馬乗りになると、
そのまま滅茶苦茶に殴りだした。モコの顔には何の表情も浮かんでいない。
幸太郎は拷問を受けた女の子の所へ駆け寄る。まだかすかに息はある。
「治す!! 絶対に治す!! 傷一つたりとも残さんっ!!!
この子を治せっ! 『陽光の癒し』!!」
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