金庫
幸太郎は『破魔の陽光』を唱えた。白い光が幸太郎を中心に広がる。
『壁』はぐにゃりと歪むと、カーテンに描いた絵のように吹き飛んだ。
「な・・・? なんだとお・・・?」
それが執事の遺言になった。カルタスの剣が躊躇なく首を飛ばした。
壁が消えた向こうにドアがひとつ、そして突き当りにもドアが現れた。
カルタスが手前のドアのカギ穴に指を差し込む。カルタスが指をひねると
『カチリ』という音と共にドアが開いた。全員で部屋に踏み込む。
部屋はエルロー辺境伯の寝室のようだった。
部屋自体は全く異常はない。当然か。
しかし、幸太郎はゴテゴテと異常に豪華な造りの部屋が気に障った。
これは日本人ゆえだろうか。カルタスは部屋の奥のドアも開けて踏み込んだ。
「幸太郎様、こっちは金庫のようです」
「そうか、お金に用はない・・・。あ!」
幸太郎はお金の使い道を思いついた。
と、いうより、何故、今まで考えなかったのかと
自分の馬鹿さ加減に嫌気がさした。
これでギブルスに馬車などの代金を払える。
ジャンジャックとグレゴリオにも報酬を出せる。
そして、何よりモコの村へ賠償金が出る。
「まあ、とりあえず、そっちは後回しだ。
今はエルローの馬鹿野郎をぶちのめす」
幸太郎と、モコ、カルタスは突き当りのドアを開けて渡り廊下を進む。
敷地の中は、ゴーストたちが飛び交っている。
これなら誰も入ってこないだろう。
塔の階段は一階へ向かう下り階段が、瓦礫で埋まっていた。
なるほど、完全に人が出入りすることを考えていない。
・・・つまり、この塔は本来の物見櫓の機能は無くなって、
エルロー辺境伯の『趣味』のためのみに存在しているということだ。
(C)雨男 2021/12/12 ALL RIGHTS RESERVED




