忍びない
「奥様はエルロー辺境伯がしていることを、ご存知なのですか?」
「はい、ご存知です。しかし、加担したことは一度もございません。
むしろ、以前は『次は自分の番ではないか?』と常に怯えておられました」
「『自分の番』・・・ですか?」
「その通りです。奥様は旦那様と強引に結婚させられたのです。
以前の旦那様は『伯爵』でした。しかし、『辺境伯』は
位で言えば『侯爵』クラス。
王国は旦那様の前の奥様を無理やり離婚させて、
奥様を旦那様に与えたのです。
奥様の本名は『ファルネーゼ・ミューラー』・・・。
ミューラー侯爵家の長女です。
旦那様にそれなりの『箔』をつけるためだったのでしょう。
奥様は結婚当時、まだ13歳・・・。おわかりですね?」
「むう・・・確かに、それではターゲットになる可能性が・・・」
「それは旦那様も自覚しておられたようです。結婚とは名ばかり。
旦那様は極力、奥様に近寄ろうとしませんでした。
奥様が成人した後も、一度も夜の営みはありません。
奥様は今、21歳、花も盛りのころ。このまま朽ち果てるのは、
あまりにも忍びないと存じます」
「わかりました。今はご挨拶には伺えませんが、
危害は加えないとお約束いたします」
「ありがとうございます。こちらの処理が終わりましたら、
奥様のおそばについていても、よろしいでしょうか?」
「もちろんです。お茶と、お菓子を持って奥様の寝室へゆかれるといいでしょう」
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