フードはおろすな
モコは幸太郎の言った内容を思い返していた。
(エルロー辺境伯のやってることを、黙認してるならモラルが低い。
仕事を辞めないなら、やっぱりモラルは低い。
お金目当てなら子供の命よりお金ってことになる。
上司の命令に従うだけなら、その人のモラルはその程度・・・)
「だから、エルロー辺境伯の警護ってことで威張っている奴らなら、
目の前に旨そうな酒の匂いがする樽が出てきたら、
必ずイチャモンつけてくるよ。
そして、酒の樽が1つだけなら開けるのを躊躇するだろう。しかし、
2つ酒の樽があれば、『ひとつなら、いいだろ』って判断をする。
奴らは『片方は残してやったんだ』って自分への言い訳ができるからな。
2つ目の樽は、奴らの言い訳のために用意するんだよ」
(ご主人様の言った通りになった・・・。
本当に片方だけ蓋を開けて呑みだした・・・。
そして、それが次の展開を決定して彼らは
逃げることが不可能になった・・・)
「人は、楽しそうな笑い声に強く惹かれるものなんだ。
俺の故郷の神話にも、これを利用した逸話が残っているよ。
酒を飲みだした警護の声は、さらに多くの警護を呼び寄せるだろう。
そして、人が集まれば集まるほど、
個人の責任はあいまいになっていく。
『誰かが警戒してるはず』だってな。
集まってきた中に騎士・・・できれば隊長格がいれば
御の字なんだけど・・・。この状態が出来上がれば、
魔導士も警戒は緩む。ゾンビの調査に来るだろう。
『これだけ前衛がいれば、呪文を唱えることは容易』だと思うはずだ」
モコはフードを深くかぶり直す。
「ひとつだけ、問題点がある。人の笑い声は人を惹きつける。
おそらく周囲の家の窓から、こっちを見る者が必ずいるはずだ。
だからモコは絶対にフードを下ろすな。
俺はいい。むしろ、人族である俺のほうを
憶えてもらうほうが後々都合がいいからな」
(C)雨男 2021/12/10 ALL RIGHTS RESERVED




