奴隷商人の館 3
幸太郎はモコに目配せする。
モコは目を閉じて『観念した』というポーズをとる。
しかし、本当はモコは意識を耳へ集中させていた。館の中で声がする。
「なんだと・・・? コナへ向かった連中が持っていた
小狼族の娘に間違いないと言うのか?」
「はい、間違いないと思います。髪の色、小狼族にしては豊かな胸、
そして、あの娘に着けてある手錠は人狩りどもの
持ち物と同じものだと思います」
「それで、本当に首輪はついてないのだな?」
「はい。確かに首輪はありません」
「どうやって外したのだ・・・?
それともまさか人狩りどもは首輪を付けるのを忘れた・・・?
首輪の予備を持っていなかったのか?」
「真偽を確かめる術はないと思います。ただ、一番ありそうな状況は
人狩りの中に裏切者がいた、という場合でしょう」
「最初から『つけるふり』だけで、
独り占めするつもりだった、というわけか・・・?」
「あの娘は、稀にみる上玉です。
独り占めしようとする者がいても不思議ではありません。
それどころか、あの娘に恋してしまったという状況すら、ありえます」
「ふん・・・。薄汚い人狩りどもは、これだから・・・。しかし、
この商館に持ち込まれたのはチャンスだな。
なんとか辺境伯にわからないように取り戻したいところだ。
よし、まずは会うとしよう。応接室へ通してくれ」
「あの男は『コウタロウ・ミツヤ』と名乗りました。
聞いたことはありませんが、立ち居振る舞い、言葉使い、
間違いなく貴族と思われます。油断なさいませぬよう」
(C)雨男 2021/12/01 ALL RIGHTS RESERVED