番兵の失態
「あとは『町があまり変わっていないようだが』って話を番兵にしただろ?
あれも誘導の一部さ。番兵が『町は変わった』という返事をしたら
『ほうほう』とか相槌をうって、自慢話でもなんでも聞いてやればいい。
『町は変わっていない』と言ったら・・・結果は、今見た通りさ」
モコは目を見開いて、幸太郎を見上げている。
「要は、番兵に自分の考えを言わせて、それを肯定する。否定はしない。
元々、異世界人の俺に町が変わったかどうかなんて、わかるはずもない。
最後に番兵に賄賂をつかませた。たった金貨2枚だが、
あれが誘導の仕上げさ。
俺が賄賂を渡したのに、俺はまったく、何も番兵に要求しなかっただろ?
番兵にはメリットだけで、何も困ることが無い。
一つ目の『ギルドカード』に関する推理を否定しないことがポイント1。
二つ目の『町の変化』に関する番兵の考えを
否定しないことが、ポイント2。
この2つのポイントを繋ぐと線になる。流れができてしまうのさ。
そして、自分に一切デメリットが無い賄賂。
もう、ここまで来たら俺を疑うということは、
自分の考えを否定してるような気分になるのさ。
そして、番兵は『元々、こいつ一人疑って何の意味がある?』
って『気がしてくる』んだよ」
「・・・それで、あとは私に対しての『一応』の
質問をして終わりってことなんですね・・・」
「そう。『俺はちゃんと仕事はしてるぞ』って自分への言い訳さ。
もちろん、モコの演技と、俺の説明が
食い違っていたら怪しまれただろう。
だが、昨日練習してあるから問題はない。
ただ・・・、『ギブルス』の名前の効果は想定以上だったよ。
よっぽど変人で有名なんだろう・・・。
ジャンジャックたちに会えたのは幸運だったな」 ありがたやー
「ふふ、本当はこれから私たちは大騒動を起こす予定なんですけどね」
「まあ、これは番兵の責任にするのは酷ってもんだよ。
だが、今の番兵の様子だと、おそらく『小狼族の娘が町へ入った』
という報告はエルロー辺境伯には上がらないだろう。
まるで無警戒だった。これだけは番兵の失態だな」
(C)雨男 2021/11/30 ALL RIGHTS RESERVED