心理誘導?
「ああ、この世界へ来て初めて見る町だが・・・大きい町だな。
さすがは商業都市と謳われているだけのことはある」
「いいえ、違います。すごいのは幸太郎様のことですよ」
「へ?」
「見慣れない顔。ギルドカードも無い。商売人らしくもない。
最初は幸太郎様に対して、いぶかしむような目で見ていたのに・・・。
最後は・・・番兵は幸太郎様のことを全く疑っていませんでした・・・」
「ああ、そんなことか。別に大したことはしてないよ。
ちょっとした心理誘導みたいなものさ」
「え? え? なんですか? それ?」
「んーと。まずね。
『ギルドにあえて所属していない』って言ったよね。
そして、次に『ギブルスの商売相手』だって言った。
モコ、冷静に考えてこの2つの事柄に何か接点はあるかい?」
「えーと。ギルドに所属してないってことと、
ギブルスって商人の商売相手・・・。
うー・・・。接点は何も無いと思います・・・」
「ご名答。その通りさ。なーんにも接点は無いよ。
でもね、俺が番兵に『これでおわかりですね』って聞いただろ?
そしたら番兵は勝手に関係を想像した。
自分の知識と経験に従って勝手に推理して、
勝手に結論を出したのさ。俺はそれに乗っかっただけ」
幸太郎はちょっとブラック企業に勤めていた時を思い出した。
「人間って生き物はね。自分で推理して出した結論は、
否定したくないものなんだ。
現実と乖離していても、ぎりぎりまで結論を変えたがらない。
だから、その推理を肯定してやると、
肯定した人物まで正しいと勘違いしてしまう。
まあ、現実を認めなくて自滅する人も多いんだけどね。
そして人間は、自己承認欲求の塊と言っていいんだ。
そのため自分を肯定してくれる人は
無条件に味方と勘違いしてしまうんだよ」
(C)雨男 2021/11/30 ALL RIGHTS RESERVED