報酬は出ない
幸太郎は、モコに村人へ作戦の説明を頼んだ。モコには
『深夜にこっそりゴーストを使って鍵を開けて潜入する』
という作戦を伝えてある。
もちろん嘘だ。村人には危険が少ない作戦と思わせておかないと、
モコを絶対に参加させてくれないだろう。
村人はモコに任せて、幸太郎はジャンジャックと
グレゴリオを少し離れたところへ招いた。
「『密室』・・・」
幸太郎を中心に四角い光が広がった。
これで光の部屋の中の音は外へ漏れない。
「ふむ。村人に聞かせたくない話があるんだな?」
「そうだ。報酬の話だ。俺はあの娘・・・モコに雇われている。
報酬はモコが俺の奴隷になること。あの娘の望みだ。しかし・・・
俺は人間を奴隷として連れまわす趣味はない。だから、最後の
報酬の段になったらトンズラするつもりだ。つまり、この作戦には
銅貨一枚さえ報酬はでない。ジャンジャックとグレゴリオ殿は
ギルドの冒険者なんだろ? 報酬無しでもいいのか?
もし、嫌だったら・・・」
ジャンジャックとグレゴリオは、ちょっと驚いた顔をすると
顔を見合わせた。ニヤッと笑う。
「幸太郎、今、獣人をはっきり『人間』って言ったな?
お前、いいやつだな。俺たちも亜人や獣人を
差別するやつは嫌いなんだ。
もちろん報酬は無しでいいぜ。この村には恩義もあるしな」
「幸太郎殿は興味深いな。
高い教育を受けたはずだが貴族っぽくない。
獣人に対する偏見も全く感じられない。落ち着いたら一度
ゆっくり話がしてみたいものだ。もちろん俺もジャンジャックも
報酬は不要だ。エルロー辺境伯だろ? 噂は聞いている」
(C)雨男 2021/11/27 ALL RIGHTS RESERVED