前任者 2
「彼の名前はアンドリュー。彼はそりゃあもう、やる気満々だったわ。
『これぞ我が使命』『これはこのアンドリューだけしか成しえない大偉業!』
なんて鼻血が出そうなくらい。それで彼はすぐにでも地上に降りたがったのよ。
私もムラサキも一通り説明しようと思ったんだけど」
あ、ムラサキってのは私の従者よ。そろそろここへ来る頃ね、
とアステラは説明をはさんだ
「彼はやる気が先走って、説明しようとしても『大丈夫です! 任せて下さい!』
『高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応します』の一点張り。
まあ、本人はやる気なんだし、前世が聖職者だったんだから大丈夫かなって、
もう早々にジョブやスキルを与えて地上に降ろしたの」
「特に問題はなさそうですけど・・・?」
アステラは首を振った。
「彼は地上に降りたとたん、一目散に町を目指したわ。まっすぐに。
そして町に到着するやいなや、門を強行突破して中で演説を始めたのよ」
「は?」
「『この世界には間違った教えがはびこっている! 私は正しい神の教えを
無学な市民に啓蒙するために天より遣わされたのだ!』・・・とか
なんとか叫んでね・・・」
「うわあ・・・」
捕まりました? と幸太郎が質問すると、アステラはうなずいた。
「門を強行突破。大声で王国と教会を批判。市民を無学、無知と叫び、
私は天から来たと吹聴・・・」
「リーチ一発、ツモ、四暗刻、大三元、字一色ってとこですかね・・・」
「彼は翌日処刑されたわ。地上に降りて二日目だった」
アステラは頭を抱えてちゃぶ台に沈んだ。
おいたわしや、アステラ様・・・。
(C)雨男 2021/10/31 ALL RIGHTS RESERVED